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FMシンセシス:リチャード・ディヴァインの音作り・サウンドデザイン手法

FMシンセシス:リチャード・ディヴァインの音作り・サウンドデザイン手法

エレクトロニック・アーティストでありサウンドデザイナーでもあるリチャード・ディヴァイン(Richard Devine)氏が、音楽制作やサウンドデザインにおけるシンセサイザーの音作り(サウンドデザイン)手法について語ってくれました。さらに、彼自身が制作したWaves Flow Motion FM Synthのプリセット音色についても詳しく解説します。 文:DJ Pangburn

2026.10.20

「シンセのプリセットを作るときは、その1台だけで曲全体を作るつもりで取り組んでいます。」 – リチャード・ディヴァイン

1990年代初頭に活動を始めた多くのエレクトロニック・アーティストと同じく、リチャード・ディヴァイン氏は長年、デジタルとアナログの両方の機材を使いこなしてきました。AutechreやAphex Twinなど、彼と縁の深いWarp Recordsのアーティストたちと同様に、当時は安価で入手しやすいシンセサイザーを積極的に活用。ローランド(Roland)のシンセサイザーやドラムマシンはもちろん、キャリアの初期からFMシンセシスにも深く傾倒していました。

Flow Motion FM Synth

Waves Flow Motion FM Synth

※Waves Flow Motionは現在Waves Free Plugin Packより無料で入手可能です。(2026年10月)

FM音源との出会い

「FMシンセとの出会いは90年代初頭で、最初に手に入れたのはヤマハ(Yamaha)のDX-100、DX-200、TX-802、TX-81Zあたりだったと思います。今でも全部持っています」とディヴァイン氏は語ります。「質屋や中古ショップで安く、しかも簡単に手に入ったんです。当時は欲しがる人もほとんどいませんでしたが、それがFMシンセシスに触れるきっかけになりました。」

その後、ヤマハのフラッグシップFMシンセサイザーDX-7も手に入れたディヴァイン氏は、FMシンセが生み出す、輪郭の鋭いベースラインや金属的なドラムサウンドに魅了されました。

「DX-100には『Lately Bass』をはじめ、レコードで何年も聴いてきた、印象的なプリセット音色がたくさん入っていました。どうやって作られた音なのか分からなかったので、音色を聴いてようやく合点がいったんです」と振り返ります。「点と点がつながったような感覚でした。そこからFMシンセを使い始めました。」

ディヴァイン氏は、17歳のときに購入した電池駆動のDX-100を両親と一緒にビーチへ持って行ったことを覚えているといいます。当時はFM音源の音作りを学べるインターネットもなく、試行錯誤を重ねながら、この「謎めいた」シンセエンジンの仕組みを身につけていきました。DXシリーズの工場出荷時プリセットを愛し、長年FMシンセと向き合ってきた経験から、Waves AudioのハイブリッドFM/バーチャル・アナログ・シンセサイザー兼シーケンサー「Flow Motion FM Synth」では、100種類を超えるプリセットを手がけています。

なぜFMシンセシスなのか?

ディヴァイン氏がFMシンセシスに惹かれる大きな理由は、その自由度の高さです。基本となるのはシンプルな正弦波(サイン波)。「サイン波があれば、どんな音でも作れる」と彼はよく話すそうです。再合成の手法で1,000ものサイン波を重ねたり、波形同士を変調し合って複雑な音を生み出したりすることもできます。FMシンセを使い始めた彼は、オペレーターの数や組み合わせ次第で、鋭く金属的な音から、滑らかでガラスのように澄んだ音、質感豊かな音まで作り分けられることに気づきました。

「さまざまなシンセサウンドはもちろん、キック、スネア、ハイハットといったパーカッションの音作りにも、FMがとても幅広く使えることにすぐ気づきました」とディヴァイン氏。「音楽プロデューサーとしてもサウンドデザイナーとしても、今なおFMシンセを使い続けています。」

Googleでのサウンドデザイン

「Googleなどの企業でサウンドデザインを手がける際も、効果音の制作にはFMシンセシスを使っています。ユーザー体験(UX)やユーザーインターフェース(UI)のサウンドでは、FMの音が周囲の音に埋もれず、明瞭に聞こえるからです」と彼は付け加えます。「FMシンセはピッチやエンベロープの変化を明確に表現できるため、こうした音作りに適しています。電気自動車やVR、ビデオゲームなど、デバイスや環境の状態をユーザーに伝えるサウンドには特に効果的です。クライアントもその良さを理解していて、複数の案から選んでもらうと、FMの音が採用されることが多いですね。」

ディヴァイン氏はMicrosoft WindowsのUIサウンドも数多く手がけています。その中には、彼も参加したゲーム『Gears of War』のサウンドトラックをベースに制作するよう依頼されたものもあり、ここでもFMシンセが活用されました。

「WavesがFlow Motionシンセサイザーを発表したとき、本当に素晴らしいものを作ってくれたと思いました」とディヴァイン氏は語ります。「FM音源を始めたばかりの人にとって、従来のDXシンセの画面を見るのは骨が折れる作業です。フィードバックやオペレーターの構造が複雑で、理解するのが難しいのです。しかしFlow Motionは、インターフェースがその難解さを大幅にシンプルにしてくれて、本来あるべき『楽しさ』を取り戻してくれました。」

音色とプリセットのデザイン手法

シンセサイザーを使う人が求めているのは、優れた音を生み出し、音楽制作に役立つツールです。ハードウェアかソフトウェアかは、それほど重要ではありません。大切なのは、シンセエンジンの仕組みや音作りの方法を理解し、視覚的にも把握しながら自在に操作できることです。

「Flow Motionのように直感的に理解できるインターフェースなら、目指す音にもっと早くたどり着けます」とディヴァイン氏は語ります。「さらに、エフェクトセクションや、Elektron社製品のパラメーターロック(ステップごとに設定を変更できる機能)に似たSnapshot Sequencerなどの追加機能も実にクールです。数回クリックするだけで、全体がどう機能しているかビジュアルで確認しながら、超複雑なサウンドを作り出すことができます。」

ソロ作品とサウンドデザインの両方でFlow Motionを使うディヴァイン氏は、2つの制作プロセスには共通する部分が多いといいます。サウンドデザイン用に作った音がソロ曲に使われることもあれば、その逆もあります。Flow MotionをはじめとするFMシンセで音作りをする際、彼はまず音源(オシレーター)部分から着手します。

まずはオペレーター(FM音源における発振器)のチューニング範囲を確認し、1つ目の音を作ります。次に2つ目を加え、1つ目のオペレーターにどのような変調がかかるかを試しながら、フィードバックやピッチ範囲などを調整します。フィルターやエンベロープといった機能を加える前に、まずはオペレーター同士の組み合わせを探るのです。

「Flow Motionでは、4つのオシレーターすべてを同時に操作するとどうなるかを試すのが好きです。また、フィードバックノブを様々な比率に設定して、どこまで音が汚くなり、音楽的に原形をとどめなくなるか限界を聴くのも面白いですね。基本的に僕は音源そのものの可能性を探求し、その後にアルペジエーターやノートシーケンサーを加え、シグナルパスにエンベロープジェネレーターを掛け、LFOを追加してフィードバックやピッチなどのパラメーターを変調させていくという手順を踏んでいます。」

各パラメーターの働きを把握したら、本格的なサウンドデザインに取りかかります。モジュラーシンセに親しんできたディヴァイン氏は、音作りを個々のモジュールに分けて考えるのが好きだといいます。

「モジュラーシンセで学んだのは、他のモジュールにパッチケーブルをつなぐ前に、まずは1つの要素をしっかり理解するということでした」と彼は説明します。「これはソフトウェア音源や他のハードウェアシンセを探求するときもまったく同じアプローチです。」

ディヴァイン氏は、シンセ1台だけで曲全体を作るつもりでプリセットを制作します。まずパッド、リード、ベースなど、楽曲の中心となる音色を作り、その後でパーカッション系の音色に取り組みます。

「そうすることで、そのシンセエンジンの長所と短所がすぐに見えてきます。『このシンセだけで2分間の楽曲を作れるか?』と考えながら音色のセットを作っていくと、キックドラムが得意だったり、透明感のあるローズ・ピアノ風の音が得意だったりと発見があります。これは他のシンセでも毎回行っているエクササイズのようなものです。」

「音を作りながら保存していき、何ができるかを確かめます。実際にFlow Motionだけで短いトラックを作ってみましたが、素早く多様な音を作り出せることができて心地よい驚きでした。パーカッションもその一部で、楽曲のキーに合わせて簡単にチューニングできます。」

ビート、アンビエントパッド、ダイナミックなベースラインの作り方

FMシンセでビートを作るとき、ディヴァイン氏はまずオシレーターの数を確認します。次にアルゴリズム一覧を見て、シンセに搭載されたオペレーターの構成を把握し、各ボイス/オペレーターにどれだけのエンベロープ(ADSR)を設定できるかを確かめます。

ビート(パーカッション)

「金属的なパーカッションを作るときは、自由にルーティングできるオペレーターを使います。オペレーター同士を変調させたり、フィードバック量を調整したりして、ノイズを含んださまざまな音色を作るんです」と彼は説明します。「また、ピッチの強弱を変えたり、オペレーター同士を変調させながら、同時にADSRで各サウンドのアタック(立ち上がり)やディケイ(減衰時間)を調整します。」

金属的なビートを作る際は、モジュレーション・マトリックスを使って、ベロシティ(打鍵の強さ)やモジュレーションホイールに各種パラメーターを割り当てます。複数のLFOが使える場合は、それらも活用します。

「言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、これがFMベースのパーカッションサウンドを作るときのおおまかなアプローチです」とディヴァイン氏。「Flow Motionでパーカッションを作るときも、内蔵パラメーターを使って同じ手法をとっています。要はスウィートスポット(一番良い音が出る設定)を見つけ出し、楽曲を構成するための魅力的な音のパレットを作ることなのです。」

金属的なパーカッションの音色を探しているなら、ディヴァイン氏のおすすめプリセットDR Crash Percussion、DR Snap Snare、DR Zap Tacを試してみてください。似た音を自分で作りたい場合は、各プリセットの設定を参考にしながら、パラメーターを変えて実験してみましょう。

以下の音源では、Flow Motionに収録されたリチャード・ディヴァイン氏のプリセット「DR Snap Snare」「Ambient Lo Kick」「DR Groovy Hat」を使用しています。

パッド(空間系サウンド)

FMシンセで豊かなアンビエントパッド音色をデザインする場合、ディヴァイン氏はエンベロープ設定で超スローなアタックと長いディケイを設定します。また、ピッチの異なる倍音レイヤーを重ねるのも好みです。たとえば、1つのオシレーターを「-1オクターブ」に設定し、2つ目を「+2オクターブ」に設定します。そこから、他のオシレーターに「x3」や「x1/2」といった絶妙な比率を設定し、オシレーター間に「隠し味程度の変調」を加えます。彼のPD Afternoon pad、PD Blissful Lights、Imperial padといったプリセットにはこの手法が活かされています。

「一番好きなのはサイン波と三角波(トライアングル波)を混ぜることです」と彼は説明します。「さらに4つ目のオシレーターを加えてホワイトノイズを薄く混ぜ、音の質感(テクスチャー)を足すこともあります。そこから大量のリバーブやディレイをかけ、長いディケイタイムを設定するのが楽しいですね。」

以下のオーディオサンプルでは、Flow Motionのプリセット「Blissful Lights pad」を使用して2つのアンビエントフレーズを作成しています。1つは低いオクターブで、もう1つは高いオクターブで対比させています。

ベースライン

ベースラインでは、最初の2つのオシレーターに「x1/4」から「x2」までの比率を設定し、サイン波同士を相互に変調させる方法を好みます。さらに3つ目のオシレーターを加え、サウンドの土台となるクリーンなサブベースを作ります。

以下のオーディオサンプルでは、リチャード作の「BS Stark Bass」を使用してメロウなアシッド・テクノ風ベースラインを作成しています。

「これにより、高域の音色が変調されてミックスの中でもしっかりと主張する音が作れます」とディヴァイン氏。「3つ目のオシレーターは純粋なサイン波として鳴らすことで、音の低域に心地よくクリーンな重量感を与えてくれます。」

彼のStark BassやStately Bassといったプリセットは、Flow MotionやFMシンセ一般におけるベースライン作りの良い手本となっています。

こちらの音源では、リチャード・ディヴァイン制作のFlow Motionプリセットを3つ組み合わせ、ゆったりとしたグルーヴのアンビエント・テクノ・トラックに仕上げています。

プリセットを使う楽しさ

プリセットの使用に否定的な意見もありますが、ディヴァイン氏は、プリセットでも自作のパッチでも、使える音は積極的に使えばいいと考えています。

「感情を揺さぶり、人の心を惹きつける音楽を作ることこそが最終目標です」とディヴァイン氏は語ります。「プリセットを使っているからといって人を非難したことは一度もありません。僕だって自分のプリセットを何度も使っています。1ドルのトイシンセから1万ドルのコンプレッサーまで何でも使いますよ。道具が高いか安いか、完成までに時間がかかったか素早くできたかは関係ありません。納得のいく場所にたどり着けるかどうかが、僕にとって最も重要なのです。」

ディヴァイン氏が試作品やベータ版のシンセサイザーを手にする場合、プリセットは用意されていません。仕様以外に手がかりのない状態から、そのシンセで何ができるのかを探っていく必要があります。

「一般のユーザーが経験することのない、かなり難しい条件で音作りをしているわけです」とディヴァイン氏は語ります。「100種類もの音が詰まっていて『これを使えばこんなことができるんだ!』とすぐ分かるシンセに出会えたら最高ですね。でも何もない状態から、その楽器が持つ『声』を見つけ出さなければならないのです。」

「だからこそ、プリセットはユーザーにその楽器の可能性を示す素晴らしいものだと感じています」と彼は付け加えます。「サウンドデザイナー/プリセットデザイナーとしての僕の目標は常に、人々にアイディアを与える『インスピレーションの踏み台』を作ることです。その音を通じて『この楽器で音楽を作りたい!』と思わせることが、僕たちの制作するコンテンツの役割なのです。」
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