マルチバンド・コンプレッサーを今一度勉強しましょう
WAVESウェブサイトに投稿されていた記事を日本語化してお届け。仕組みを理解することで、よりイメージしやすくなり、本質を理解することで応用もしやすくなるのではないでしょうか。ということで、今回はマルチバンド・コンプレッサーの仕組み「そのもの」について、取り上げていきましょう。
2020.01.01
マルチバンド・コンプレッサーは通常のコンプレッサーとどう違うのか?
なぜマルチバンド・コンプレッサーを使用するのか?
マスタリングには使用できるのか?
これらの疑問を解消して、より高度な知識を得ていきましょう。
マルチバンド・コンプレッション
コンプレッションは、最もよく使用されている割に、あまり正しい理解がされていないオーディオ加工技術のひとつです。パンチを加え、トラックをミックスでつなぎ合わせるための「接着剤」としての役目を果たします。しかしながら、適切な使用方法を採らなければ、有害になってしまうこともあります。
マルチバンド・コンプレッサーは、通常のコンプよりも洗練されたものではあるものの、通常のコンプレッサーと同様に諸刃の剣でもあります。適切に使用すれば素晴らしい効果を発揮しますが、さもなければ期待を下回る効果しか得られないことを意味します。
コンプレッション:ミックスにおける目に見えないアシスタント
種類を問わず、コンプレッサーがどのようなものなのかを理解するための最も簡単な考え方は、ミックスにおける目に見えないアシスタントだと捉えることです。このアシスタントは、必ずひとつのタスクにのみ集中して実行します。サウンドが大きくなり過ぎる箇所において、フェーダーを下げて音量を下げます(今はあくまでも想像上の話ですので、実際にフェーダーを下げていただく必要はありません)。これがサウンドに「コンプをかける」ということであり、音量の大きな箇所と小さい箇所の音量差が大きくなりすぎないようにするための手法です。結果としてトラック全域にわたる音量差が小さくなり、全体が安定します。
音量がどの程度大きいと、大きすぎるとみなされるのか?これは、スレッショルド設定によって決定されます。コンプレッサーにおいては設定したスレッショルドをオーディオ信号が上回った場合にのみ、フェーダーを下げるよう動作します。
どのくらい音量を下げる必要があるのか?音量を下げる量は、コンプレッサーの圧縮率によって決まります。レシオを2:1に設定した場合、入力信号がスレッショルドを2 dB上回ると、コンプレッサーのフェーダーが下げられ、出力の増加がわずか1 dBになります。 レシオが3:1の場合、出力の増加はスレッショルドを3 dB超えるごとに1 dBになります。
言い換えると、スレッショルドが低く、レシオが高いほど、より圧縮率の高いコンプレッサーが適用されることになります。
最後に、その目に見えないアシスタントが稲妻のような速度の反射を持っていると想像してください。あまりに速すぎるので、わずか数ミリ秒でその仮想フェーダーを動かすことができます。アタックタイムを指定したいですか?すなわち、信号が大きすぎるときに、目に見えないアシスタントが「フェーダー」を下ろすのにどの程度の時間を要するようにしたいですか?リリース・タイムは、フェーダーが再び元の位置に戻るまでの時間を指定します。
マルチバンド圧縮:周波数を選択可能なアシスタント
スレッショルド、レシオ、アタック、リリース。これら4種類の主要なコントロールは、標準的なコンプレッサーとマルチバンド・コンプレッサーのどちらにも提供されています。では、両者の違いはどこにあるのでしょうか?その答えは簡単です。標準的なコンプは信号の全周波数に対して一括で影響を及ぼすのに対して、マルチバンド・コンプレッサーは信号の特定の周波数領域に対してのみ影響を及ぼします。これは、入力されるオーディオ信号をいくつかの「クロスオーバー」フィルタにルーティングすることで、信号を複数の周波数領域に分割して、分割した各周波数領域に対して独立して圧縮を適用することで実現します。マルチバンド・コンプレッサーを使用すると、低域に変更を加えずに高域に変更を加えたり、その逆の操作が可能です。
マルチバンド・コンプレッサーの考え方の肝となっているのは、その一貫性です。各楽器(または全体的なミックス)の高音、中音域、および低音の各成分を均等にバランスさせることです。 標準的なコンプに内在する問題によって引き起こされる、ポンピングや呼吸時の不自然なサウンドの問題や、またコンプ後のボーカルトラックでは高域成分が損なわれてしまう問題を回避することを可能とします。
マルチバンドコンプレッサーの適切な使用例を、以下に幾つか示します。
1.ボーカルのミキシングを目的として
特定の帯域を選択的に圧縮することで、曲の途中でボーカルが別の帯域に移る際に様々な方法でリードボーカルを成形したり、人間の耳が特に敏感な高域において激しく鳴っているギターの成分を減らしたりすることが可能です。
このチュートリアルでは、ミックスエンジニアのTony Maserati(Beyonce、Lady Gagaのエンジニアとして有名)は、ボーカルトラックにC4 Multiband Compressorを使用してミッドレンジを滑らかにし、ダイナミックなパフォーマンスが自然に響くように高域成分を足しています。
2.ディエッサーとしてのマルチバンド・コンプレッサーの使用
マルチバンド・コンプレッサーを使用すれば、ボーカル特有の雑音("s"のサウンドによって引き起こされる厄介なディストーションノイズ)を除去することも可能です。また、マイクに近すぎる "p"音によって引き起こされる爆発的な雑音を除去することも可能です。以下のクイックビデオでは、C6 Multiband Compressorを用いてボーカルトラックのノイズを除去する方法についてご覧いただけます。
3.マルチバンド・コンプレッサーによるベースのミキシング
マルチバンド・コンプレッサーはフィンガーベースのトラックの歯切れを良くするのにも最適です。中高域には影響を与えることなく低域をタイトにすることで(ブーミングや唸るような成分は抑えつつ)、サウンドにアタック感を与えることができます。
4.マルチバンド・コンプレッサーをマスタリングに使用する
マルチバンド・コンプレッサーは標準的なコンプよりも目立ちにくく微かなエフェクトの効果を与えることが可能ですので、マスタリングの強力なツールとしても使用可能です。ボーカルに対して音量が大きすぎるバスドラムのトラックや、音量が均一でないボーカルトラックを含むようなミックスの質を高めるのに高い効果を発揮します。ボーカルのサウンドには影響を与えずに、耳障りなスネアを絞ったり、過度にうるさく鳴り響くハイハットとけだるいボーカルを相対的に均一にすることも可能です。
マスタリングで使用するその他のコンプと同様に、マルチバンド・コンプレッサーもマスタリングにおいては慎重に使用する必要があります。経験則からお勧めできる方法として、全ての周波数領域に対して同じ(もしくは似た)レシオを設定してください。そうしないと、サウンドの均一性を損なう恐れがあります。
位相補償(リニアフェイズ)のクロスオーバーが重要な理由
これまで見てきたように、すべてのマルチバンド・コンプレッサーはクロスオーバーフィルターを使用しているため、必要な周波数域にのみ圧縮を適用できます。
WavesのC4 Multiband Compressor、C6 Multiband Compressor、およびLinear Phase Multiband Compressorの各製品は、位相ズレの無いフラットな周波数応答を実現するように、位相補償のクロスオーバーを使用します。サウンドに意図しない色の変化が付いてしまったり、周波数ごとに異なるゲインを適用した際にバンド間のピッチシフトが生じてしまうなど、好ましくない人工的なサウンドになってしまうのを回避するために重要です。
マルチバンド・コンプレッサーの選択方法
どのマルチバンド・コンプレッサーを選択するかは、コンプレッサーを適用する周波数をどのように選択したいかによってある程度は決まります。C4 Multiband Compressorは4つの周波数帯に、またLinear Phase Multiband Compressorは5つの周波数帯に分割します。C6 Multiband Compressorは、4つの固定帯域と、パラメトリック幅(Q)制御とサイドチェイン入力を備えた2つの追加のフローティング帯域を含む計6つの周波数帯を使用可能です。フローティング帯域は、他の信号のレベル変化に反応することのできる、強力な機能です。特定の周波数範囲を下げるためにサイドチェイン入力を用いたオートメーションを行うことで、厄介なコンポーネントを落ち着かせることができます。
C4 Multiband CompressorとC6 Multiband Compressorは様々なミキシング用途に適していますが、Linear Phase Multiband Compressorは、選択可能なスレッショルド、自動メイクアップゲイン、有限レスポンスフィルタなどの追加機能があり、マスタリング用途に最適です。
上記の3つのプラグインは全て、拡張機能も提供しています。リミッティングやコンプの機能に加えて、コンプをかけ過ぎてしまった素材に対して、ダイナミクスを少し取り戻して修復するための操作が可能です。
重要なことは、標準的なコンプでは不可能なことを、マルチバンド・コンプレッサーでは実現可能だということです。マルチバンド・コンプレッサーでは、分割した周波数帯域ごとに異なる反応をさせることが可能です。これによって、オーディオ信号の特定の部分に対してのみ選択的にコンプレッサーを適用し、残りのサウンドはそのまま残しておくことが可能となります。ボーカル、楽器、あるいはフルミックスにおいて、問題のある周波数領域に対してのみ選択的にコンプを適用したい場合に非常に便利です。
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