ミックスで「コンプのかけ過ぎ」を避ける7つのコツ
ミックスする時に、コンプレッションをかけすぎたり不足したりはしていないでしょうか?全てのコンプレッションに目的を持っていますか?
かけすぎで躍動感が失われたり、逆にルーズすぎてかかりが弱かったりということを避け、ミックスのクリアさや分離、インパクトを改善する方法を学びましょう。
By Michael White
2020.01.01
コンプレッションは、おそらくレコーディングとミキシングで最も誤解されているプロセスの1つです。オーディオエンジニアリングにおいて不可欠の要素であるにも関わらず、コンプレッションを聞き分け、効果的に操るスキルを得るには長い年月を要することもあります。
アタック、リリース、レシオとスレッショルドというシンプルな構成ですが、途方も無い数の組み合わせが存在します。楽器には様々な種類があり、それぞれのシチュエーションやコンプレッサーの種類によってもうまくいくアプローチが変わってくるということを考えると、その組み合わせは飛躍的に増大します。つまり、非常に迷走しやすいものなのです。
元々は純粋に技術的な問題を解決するツールとして使われていたコンプレッションですが、サウンドをパワフルにするという点でも役立ちます。トータルバランス、音のフォーカスや明確さを加え、デッドなサウンドに生命感を吹き込めるのです。同時に、ダイナミクスのあるパフォーマンスを平坦にし、奥行きや個性を消し、薄っぺらく窮屈でつまらないサウンドにしてしまう可能性もあります。
では、コンプレッションの過剰/不足を判断するにはどうすれば良いのでしょうか?
1. コンプレッションが何をするものなのかを知る
技術面での定義から入るのがベストでしょう。辞書を参照してもボーカルやドラムにどうやってコンプレッションをかけるのかということは分かりませんが、圧縮(コンプレッション)というものの基本的な特徴や、それが音の伝達においてどう適用されるのかを理解することはできます。
圧縮(コンプレッション)とは:
- 縮める、もしくは強く押すことによって対象の容積を減らす力。
- 対象をより小さくすることで、ある特定の空間に適合させる行為。
これらの定義に底通する重要な要素は、コンプレッションは例えば音の波形などの対象を小さくし、密度を高めるということです。密度は、スピーカーから音を強く効率良く出すために重要です。音の強さはより良い定位、引いてはより良い音像に繋がります。「小ささ」という要素も重要です。より焦点が絞られ、ミックスの各要素が分離し、ミックスを曇らせずにリバーブやエフェクトを聞かせるスペースを残せるからです。
シンプルに見えるでしょうか? しかし、コンプレッサーの種類はたくさんあり、アタックやリリース、レシオをどう使うかによって、もっと複雑になるのです。
周波数帯のバランスとコンプレッションのバランスが共に適切であれば、レベルのバランスを取りクオリティの高いエフェクトを使用するだけで、ダイナミックで奥行きがあり、様々なスピーカーでうまく再生されるミックスにすることができます。
それとは反対に、オーバーコンプレッションされたミックスは薄っぺらく、平坦で耳障りです。また、コンプレッションが足りないと音がぼやけて散らかってしまい、ダイナミクスも欠けてしまいます。
2. どんな風にコンプレッションをかけていますか?
コンプレッションを効果的に使う方法を学ぶ過程では通常、コンプレッションをありとあらゆるものにとことんかけるか、あまりにコンプレッションをかけないために十分な結果を得られないかのどちらかの道を通ることになります。音の焦点と音像のクオリティが充分かつ音楽の自然なダイナミクスが保たれるバランスというのは、その中間です。
3. オーバーコンプレッションの警告サイン
オーバーコンプレッションされたミックスの最も一般的な特徴は、奥行きとサイズ感の欠如です。
- 奥行きはダイナミクスの動きに関係する特徴です。パフォーマンスのダイナミクス、プログラミングされたダイナミクス、トランジェントからサステインにかけてのダイナミクスのどれであってもそうです。あまりにたくさんのトラックでダイナミクスの動きが欠如すると、ミックスは窮屈で耳障りになります。低域は高域に比べオーバーコンプレッションされやすいので、極端に窮屈なサウンドやぼやけたサウンドになってしまうのは主に低域が原因です。
- 低域を増すにはより大きなダイナミクスの動きが必要です。なぜなら、ほとんどのサウンドでサステインのエネルギーを運んでいるのは低域で、高域はその基礎の上にあるからです。低域というものは元々ダイナミクスが少ないので、トランジェントのエナジーを使って、あまりにサステインをコンプレッションしてしまうと、大抵はその周波数帯で感じられるパワーが減ってしまうでしょう。比較するエナジーがないと、ラウドなサウンドはパワフルに聞こえないのです。
4. コンプレッション不足の警告サイン
最も一般的なコンプレッション不足の特徴は、ぼやけた、個々の要素の分離が悪いミックスになることです。ミックスの中の要素が多いほど、分離させるのは難しくなります。コンプレッションでそれぞれのパフォーマンスの焦点をはっきりさせることで、タイトなダイナミクスレンジの範囲内でもダイナミクスを感じられるようになります。
- ダイナミクスレンジがあまりにルーズだと、他のサウンドと混じった時に音が埋もれてしまいます。
- 分かりやすいコンプレッション不足の警告サインとしては、スピーカーの音量を上げた時にだけ良いサウンドに聞こえるというものがあります。スピーカーの音量を上げると、リスニングスペースではハードウェア的なドライバーコンプレッションとアコースティックコンプレッションがかかり始め、ミックスで足りなかった部分が補完されます。音量を下げると、ミックスのバランスが崩れ始めるのが分かるでしょう。どの音が一番早く消えたかということを覚えておきましょう。また、低域は低いヴォリュームにおいてはより早く減衰するということに注意しましょう。
5. バランスの取れたアプローチ
ミックス内でのコンプレッションのバランスを効果的に取るには、コンプレッションの基礎を理解している必要があります。各トラック、ステムやミックスバスの各々のコンプレッションは、ミックスの中で必ず何かの機能を果たしていなければいけません。コンプレッションの機能としては、パフォーマンス全体のダイナミクスのバランスを取る、サウンドをパンプ(膨張)し躍動感を出す、サウンドに一体感を出す、そして特殊エフェクトとして使用する、などがあります。
コンプレッションの4つの基本的な機能別の役割を見ていきましょう。
-
トランスペアレント・コンプレッション(透明なコンプレッション)
トランスペアレント・コンプレッション(透明なコンプレッション)は、パフォーマンス全体のダイナミクスを均すために行われ、その効果が聞かれるのではなく、「感じられる」ために行われます。スレッショルドが低くレシオも非常に低い設定では通常、アタックタイムとリリースタイムは遅めになります。こうすることで、コンプレッションは聴感上の音量を表すRMSのエナジーに対して働きかけることができるのです。ゲインリダクションの量が一定になるように設定します。 -
グルーヴベース・コンプレッション(ノリに合わせたコンプレッション)
一般的には「パンプ & ブリーズ」コンプレッションと呼ばれていますが、重要な違いとしてはリリースタイムが4分、8分、16分音符など、音楽的な値になっていることです。曲に対して音楽的なタイミングでリリースをパンプするため、リズムの動きにアクセントをつける効果があります。アタックタイムは、保ちたいトランジェントの量に応じて早め〜遅めに設定します。 -
ソリディファイイング・コンプレッション(ソリッドなコンプレッション)
このコンプレッションの目的は、サウンドもしくはミックスに密度とクリアさをもたらすことです。PuigChild Compressor(Fairchild 670)、CLA-2A(Teletronix LA2A)、V-Comp(Neve 2254)などのマルチステージリリースのヴィンテージブロードキャストリミッターは、このテクニックにうってつけです。これらのほとんどはアタックタイムが約1msで、2~3ステージのリリースがあります。典型的なリリースステージには、第一段階の早いリカバリーと、それに続く第二段階の長いリカバリーがあります。第二段階のリカバリーは10~20秒になることもあります。ハーモニックディストーションとコンポーネントのノンリニアな特性の組み合わせが、ミックスで最も重要なトラックに対して非常に有益なコンプレッションを作り出します。 -
エフェクト用のコンプレッション
ビッグなロックドラムにかかっている古典的なパンプ & ブリーズ・エフェクトのように、コンプレッションをはっきりと聞かせたいことも時にはあります。単にコンプレッサーやプリアンプ、もしくはテープエミュレーションでディストーションさせる(歪ませる)ということもあるでしょう。そう、ディストーションはコンプレッションの一種なのです。極端なコンプレッションとも言えるでしょう。デバイスが許容できる以上のレベルまで突っ込む(オーバードライヴさせる)というのは、実質的にダイナミックレンジを狭めていることになるのです。
6. 数字の入力は慎重に
アタック、リリースとレシオの数値のセッティングは常に音源自体と関係しています。一般的には、忙しいリズムのサウンドには早いセッティングが、サステインのあるサウンドには遅めのセッティングがよいでしょう。レシオは、どれだけ激しく、もしくは色を出さずにコンプレッションをかけるかを決定します。以下のガイドラインは数値を決定する上で良い出発点にはなりますが、値を正しく設定する一番の方法は、数値ではなく耳で判断することだということを常に覚えておいて下さい。
Attack settings -アタックの設定-
アタックタイムは、ミックスの奥行きにおいて位置の前後を決定します。早いアタックタイムはサウンドをスピーカーの後ろに、遅いアタックタイムはサウンドを前に出します。これは、早いアタックがサウンドのトランジェントを削るために起こる現象で、遠くで鳴っているアコースティック楽器のトランジェントエナジーが、耳に届くまでに失われてしまうのと同じことです。これはドラムやパーカッションのようなリズムがベースとなっているパフォーマンスで顕著に表れます。異なる楽器間においてタイミングを前後させると、ミックスに奥行きが生まれます。しかし、例えばドラムセットの各トラックのアタックを同じ設定に揃えれば、別々の要素を一つの楽器のようにまとめることができるのです。
- 早いアタック:0-1ms(全て、もしくはほとんど全てのトランジェントをカット)
- 中間のアタック:1-10ms(トランジェントを短く、シャープに成型)
- 遅いアタック:10-100ms(トランジェントのアタックを温存)
Release settings -リリースの設定-
リリースタイミングでは、ゲインリダクションが回復するまでの動きを決定します。早いタイムに設定すると、音にダイナミックな存在感を足すことができます。中間の設定の場合は、通常音楽的な値にするのがベストです。そうすることで、音楽のテンポに合わせてゲインが回復していきます。これは、デッドなサウンドやミックスに躍動感を取り戻す際に威力を発揮する方法です。ドラムでは、それぞれの楽器と全体のセットのリリースタイミングをそろえることでグルーヴマシンになります。長いリリースタイムを設定すれば、ダイナミクスが一定でないサウンドのバランスを取り、安定させることができます。
- 早いリリース:0-100ms(ダイナミックな動きと存在感が生み出されます)
- 中間のリリース:100-500ms(サステインをリズミカルに成型)
- 遅いリリース:500ms – 20 sec(バランス、温かみとボディを付加)
Ratio settings -レシオの設定-
レシオの設定は、ゲインリダクションの量のバランスを取りあらゆるサウンドの音色を形作る、強力なツールです。浅めの設定ではパフォーマンスを軽く均すトランスペアレント・コンプレッションとなり、中くらいの設定は、中間程度に設定されたリズムベースのリリースと好相性です。レシオは、高くすればするほどサウンドに温かみが足されるといういことを覚えておいて下さい。はっきりしないサウンド、密度の薄いサウンドにはレシオを深めにかけると良いでしょう。エフェクト効果を狙ったコンプレッションではリミッティング・レシオがベストです。
- 浅めのレシオ:1.1:1 – 2:1 (トランスペアレント・コンプレッション)
- 中間のレシオ:2:1 – 8:1 (適度なコンプレッション)
- 深めのレシオ:8:1 – 20:1 (ヘヴィーコンプレッション)
- リミッティング・レシオ:20:1 to ∞:1 (アグレッシブなコンプレッション)
Threshold settings -スレッショルドの設定-
アタック、リリース、レシオの設定の効果はすべてスレッショルドを基に決定されます。一般的には、トランジェントのみがコンプレッションをトリガーするようにスレッショルドを設定すべきです。トランジェントレベルが一定でない場合は、スレッショルドとレシオを下げて、安定したゲインリダクションを得られるようにしましょう。ヴィンテージコンプレッサーの多くはスレッショルドが固定で、シグナルがスレッショルドをどれだけ上回るかをインプットレベルで決定します。
スレッショルドの設定の重要性はどんなに強調してもしすぎることはありません。スレッショルドの設定によって残りの設定が動かされ、スレッショルド次第でそれが効果的になるかどうかが決まります。特にトランジェントからトリガーされる、音楽的なリリースの値が設定されたリズムベースのコンプレッションではそれが顕著です。
7. 実験し、聞いてみましょう
コンプレッションの技術を学び聞くべき所はどこかということを知るには、多くの修練と細部への集中力が必要です。異なった設定で実験し、うまくいく組み合わせをを見つけることが重要です。プリセットをロードするのであれば、設定に注意し、上記チャートと見比べて調整してみてください。記事に書かれている特徴がスピーカーから聞こえてくる音と一致しているか確認してみましょう。
サウンド、もしくは1グループの楽器に深めのコンプレッションをかける場合、直接トラックにコンプレッションをかけるのではなく、パラレルコンプレッションを試してみてください。wet/dryを完全にコントロールし、ミックスのダイナミクスのバランスを簡単に取ることができます。
コンプレッサーの歴史
歴史的に見て、コンプレッサーが特定の目的を持ってデザインされたということは重要です。放送業界においては、早いアタック、とても長いリリースでリミッターを使用することでダイナミックレンジを狭めていました。そうすると電波がより遠くまで飛ぶため、より多くのオーディエンスに放送を届けることができたのです
コンプレッション関連のミキシングのテクニックは当時も似たようなものでした。現代のDAW環境のように、たくさんのコンプレッサーがすぐに使用できるという訳ではありませんでしたが、レコーディングとミキシングの過程のほとんど全てのアナログステージには、リミッティング、コンプレッション、サチュレーションがありました。
マスタリングでは、あまりに深くカッティングがされすぎてカッティングヘッドが破損するのを防ぐためにコンプレッサーが使用されていました。プロオーディオスタジオでは、レコーディングプロセスのオーディオシグナルのレベルを安定して高く保ち、プレイバック時のテープヒスの量を抑えるためにコンプレッションが使用されていました。
コンプレッションは純粋な技術的問題を解決するのにも有用なツールでしたが、サウンドをよりパワフルにするのにも役立つツールとなり、オーディオを扱う上で重要なシグナルプロセッサーの一つとなっているのです。
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