【導入事例】Michael Franti(マイケル・フランティ)のツアーを支えたWaves LV1と eMo IEM イマーシブ インイヤーモニター
2026.08.13
Photo by Casey Serrano
アメリカはコロラド州モリソンに位置する野外ライブ会場 Red Rocks Amphitheatre にてツアーエンジニアのLucas Pinzón(ルカス・ピンソン)は、Waves LV1 ClassicとWaves eMo IEMを使用し、マイケル・フランティ(Michael Franti)と彼のバンドメンバーそれぞれに向けてイマーシブ・インイヤーモニターシステムを構築しました。同キャンプにおいて、イマーシブインイヤーモニターがツアーに導入された初の事例となりました。
テネシー州ノックスビル、2026年7月7日発 — マイケル・フランティ&スピアヘッド(Michael Franti & Spearhead)がRed Rocks Amphitheatreでサマーツアーのファイナルを迎えた時、ツアーエンジニアのルカス・ピンソンはステージ脇のモニター卓の前に立っていました。彼はLV1 Classic内でSoundGridベースのイマーシブIEMミキシングエンジン「Waves eMo IEM」と「Waves LV1 Classic」を駆使し、ミュージシャン各々に対して立体的に定位させたイマーシブインイヤーミックスを構築していました。「演奏中にどんな音をモニターしたいか」を熟知しているベテランバンドに対して、ルカス自身が求める余裕を確保するために彼の手元には80-Channel Expansionが施されたLV1 Classicと、64chものInputが用意されていました。
「現実世界において、私たちは2Dで音を聴いているわけではありません。3Dで聴いています。ですから、このシステムを使うことでより現実に近い感覚を得ることができ、従来のインイヤーミックスで発生しがちだった精神的なストレスを軽減できるのです」
— Lucas Pinzón
マルーマからフランティへ — 26年のキャリア
ピンソンはラテンミュージック界のベテランであり、オーディオ業界で26年以上のキャリアを誇ります。Maluma(マルーマ)、Becky G(ベッキー・G)をはじめとする同ジャンル最大級のライブプロダクションにおいて、FOHおよびモニターエンジニアとしての実績を積み重ねてきました。同時に彼は、新しいコンソール、チャンネルストリップ、プロセッシングツールなどがリリースされるたびに導入し、その真価を発揮できる限界まで使い倒す、生粋の新製品ハンターでもあります。
彼は以前、ベッキー・Gのツアーで一度だけイマーシブモニターミキシングを使用したことがあり、その効果と可能性を確信していました。そのため、フランティのツアーでFOHを担当していた友人のカール・ミラン(Karl Milan)から電話がかかってきて、「レッドロックスで終わる短期のサマーツアーに参加しないか」と誘われた際、ピンソンは案件の詳しい内容を知る前に「やる」と即答しました。
「『レッドロックスだって? 行くに決まってるじゃないか!』と笑いながら答えましたよ。それから『ちょっと待って、アーティストは誰だって?』と聞き直したんです」
— Lucas Pinzón
現場に到着して彼が目にしたのは何十年もの間、共に活動を続けてきたバンドの姿でした。ベーシストのCarl Young(カール・ヤング)は、マイケル・フランティと36年間も活動を共にしています。その他のメンバーの多くも長年にわたって彼を支えてきました。そのような強い絆と一体感は、モニターが果たすべき役割そのものを変えていきます。
「単に音楽的なクオリティだけの問題ではないのです。この現場で最も素晴らしいと感じたのは、人々の人柄の良さでした。彼らはとてつもないミュージシャンであると同時に、人としても本当に素晴らしいのです」
— Lucas Pinzón
リハーサルなしで構築されたIEMミックス
マイケル・フランティのツアーはステージの下見をする前に当初の計画が書き換えられるという、ツアー公演でしばしば見られる厄介なケースでスタートしました。バンドは6ヶ月間一緒に演奏しておらず、ツアーのクルーは初対面、しかも本来リハーサルに充てられるはずだった予定日の前に追加公演が入ってしまいました。ピンソンがマイケル・フランティ&スピアヘッドと迎えた最初の公演は実質的にぶっつけ本番でした。適切なサウンドチェックも、落ち着いた準備も、バンドメンバーそれぞれの具体的な好みを把握する時間すらありませんでした。
彼の手元にあったのはプリセットと明確なミキシングロジック、そして入力信号を待つ80-Channel Expansionが施されたLV1 Classicだけでした。
「プリセットを読み込み、各ミュージシャンにとって最も重要な要素を優先しながら、明確なロジックに基づいて演奏者各々のミックスを構築することができました。反応は素晴らしいものでした。全員が今回のIEMを気に入ってくれましたよ。そしてその時点では、ほとんどのメンバーが自分たちがイマーシブミックスを聴いていることを知らなかったのです」
— Lucas Pinzón
ピンソンにとって、それこそが真のテストでした。ツールが完璧にその役割を果たしている時、ツールの存在感は消え去ります。ミュージシャンは単純に「ミックスが極めて自然で理にかなっている」と感じるのです。
Photo by Casey Serrano
単なる左右のステレオではなく「重要度のレイヤー」で考える
ピンソンによるeMo IEMへのアプローチは、彼が同僚たちに最もよく伝えているノウハウでもあります。まずはシステムで色々遊び、限界まで追い込んで極端な設定を試してみること。その上で頭をリセットし、「人間が実際にどのように音を聴いているか」に基づいてミックスを構築するのです。
「私は『重要度のレイヤー』という考え方をします。音量、トーン、EQ、コンプレッション、エフェクト、あるいは左右のパンニングだけで決めるのではなくステージ上の位置関係も考慮しています。『その音が空間上のどこで演奏されるか』という位置決め自体が、eMo IEMミキシングの判断材料になるのです」
— Lucas Pinzón
具体的な例を挙げましょう。ベーシストのカール・ヤングの場合、ピンソンは最も重要な要素であるベース、サブMoog、キック、ハイハット、そして彼自身のボーカルを正面に配置しました。第2のレイヤーはそれよりも少し後ろに配置され、そこにはビート、シンセ、トラックからのバックボーカル、クリック、カウント、キーボードが置かれました。そしてサイドと残りのステレオ空間が、第3のレイヤーとしてその他の情報を担いました。
「これにより、ステレオフィールド内に広大なスペースが生まれ、ダイナミックレンジが大幅に広がり、息をのむような生々しい感覚がミックス全体を通して得られました。イマーシブオーディオは私たちの脳にとって、より理にかなった解釈ができるのです」
— Lucas Pinzón
彼はサウンドの質感(トーン)に対しても非常に細心の注意を払っています。彼が担当するミュージシャンたちはそのキャリアを通して自らのトーン、機材、そして個性を磨いてきました。ピンソンの仕事はその個性を持つ音をを過剰に加工された音にするのではなく、より「その人らしい音」として感じられるようにすることです。
「単に『加工された音』にしたり、見せかけのインパクトを与えたりすることがゴールではありません。目的は、開放感があり、クリアで、音楽的かつナチュラルに感じられる音を作ることなのです」
— Lucas Pinzón
マイケルのためのミックス — 楽曲ごとのアプローチ
バンドメンバーの多くには、一度設定したらセットリスト全体を通して信頼して使える固定のeMo IEMミックスが提供されました。しかし、マイケル・フランティのミックスだけは別物でした。
「マイケルは40年以上のキャリアを経て自身の高域の聴力が低下していると感じており、モニターが以前より難しくなっているとオープンに話してくれました。同時に、マイケルは自身の楽曲を完璧に把握しています。すべてのコード、すべてのキュー、すべてのセクション、すべての小節が頭の中に入っているのです。そのため、彼はすべての音を欲しますが、同時にそれぞれの楽曲ごとに最適な意図を持ってモニターする事も望んでいました」
— Lucas Pinzón
そこでピンソンは、マイケルのインイヤーミックスを固定的なモニターミックスとしてではなく、楽曲ごとに変化させるFOHミックスのように扱いました。ボーカルとギターは常に最前線に固定しつつ、その他の回線は楽曲ごとの指示や求められるバランスに応じて再調整したのです。
この動的でイマーシブな音像は、マイケルがステージを離れる際にも寄り添い続けます。レッドロックスの客席に登っていったり、PAの目の前でパフォーマンスしたり、あるいは観客の真ん中でシンプルなアレンジのパートを演奏したりする時も同様です。
「ステージから離れている時、特にPAスピーカーの前や観客に囲まれている状況では、インイヤーミックスがしっかりとした方向感覚と安心感を与えてくれる必要があります。eMo IEMのおかげで、彼の頭のセンターに定位する音を崩す事なく、音楽的な音像を開放的かつ一体感のある状態に保つことができました」
— Lucas Pinzón
毎公演ごとに見せるバンドメンバーの反応が、彼のアプローチには効果があった事を表していました。
「『ありがとう、今までで一番よく聴こえるよ。』とか『ルカス、君がここにいてくれることがどれだけ僕たちにとって重要か分からないだろ。』といった言葉をもらいました。マイケルからも『自分のキャリアの中で最高のオーディオクルーに恵まれたと感じている。』と言われました。これほど豊富な経験と情熱を持った人たちからそう言ってもらえたことは、本当に大きな意味を持ちます」
— Lucas Pinzón
なぜLV1 Classicなのか
ピンソンにとって、モニターデスクとしてLV1 Classicを選ぶ理由は「解像度」と「可能性」の二点に集約されます。
「私がLV1でミキシングを好む大きな理由の一つは、音の空間性、ディテール、そして解像度の高さです。すべてがとても生々しく感じられます。そしてモニターPAにおいて、それこそが私が最も求めている要素なのです」
— Lucas Pinzón
もう一つの理由はワークフローです。たとえすべてのチャンネルを使い切らなくても、彼はコンソールを80 Channel Expansion構成で稼働させています。その方がシステム全体に余裕が生まれ、作業しやすいと感じるからです。64chもの入力とeMo IEMをプロジェクト全体で有効にした状態でも、機能が統合されていることを感じさせないネイティブな操作感がありました。
「LV1を使って感じる一番の違いは『すべてが可能である』ということです。どんなルーティング、位置決め、センド、ワークフローのアイデアであっても構築することができます。そのためプロセスが非常にスピーディかつ柔軟になり、リハーサル前に確固たるスタート地点を決めないといけない時や、本番直前の土壇場での問題を素早く解決しなければならない時に極めて重要となります。eMo IEMは、ワークフローにおけるもう一つの創造的で実用的なツールとなりました」
— Lucas Pinzón
他のモニターエンジニアへ伝えたいこと
ピンソンは、他のエンジニアからアドバイスを求められるタイプのエキスパートです。eMo IEMに関する彼のアドバイスは、他の新しいツールに対して言う事と同じですが、「イマーシブならではの違い」に特別な重点を置いています。
「バーチャルプレイバックを使って出来る限りいじくり回し、そのツールに対して慣れる事が重要です。限界まで使い込んで、何ができてどこに限界があるのかを理解するのです。そしてイマーシブオーディオのコツを掴んだら、できる限りシンプルかつナチュラルな方法で実際のミックスに適用してみてください」
— Lucas Pinzón
彼が警告する落とし穴は、イマーシブミキシングを「単なるエフェクト」として扱い、機能として動かせるからという理由だけで音を動かしてしまうことです。成功のカギは、人間の脳が本来音を聴いている方法と同じように活用することにあります。
「もし私がステージの真ん中に立っているミュージシャンで、前にミュージシャンがいて、後ろにも周りにも仲間がいるなら、モニターミックスからも同様に3Dの感覚を得たいと思うはずです。そのように活用すれば、単なる『機能』以上の存在になります。非常に音楽的で、人間の感覚に寄り添ったツールになるのです。そして、ミュージシャンがそれを心地よい形で体験できた時、エンジニアとしても本当に満足できます」
— Lucas Pinzón
Photo by Casey Serrano
将来を見据えて
ピンソンは秋からジジ・ペレス(Gigi Perez)のツアーへ向かいます。今回はFOHを担当し、同僚のアンドレス・ゴメス(Andres Gomez)がモニターを担当して、その現場にもeMo IEMを導入する予定です。フランティのツアーから彼が引き継いだ教訓は、単なる機能面の話ではなく、エンジニアとしての姿勢そのものでした。
「動かせるからといって、ただ音を振り回せばいいというわけではありません。ミュージシャンに適切な音響空間と明瞭度を与え、私たちが自然に聴いている感覚により近いミックスを提供することが重要なのです。演奏者がIEMを通して快適さと自信を感じられれば、パフォーマンスも向上します。そして彼らの演奏が良くなれば、客席で聴こえるショー全体も間違いなく素晴らしいものになるのです」
— Lucas Pinzón
36年間にわたって共に活動してきたバンドにとって、今回のツアーにおける驚きは「自分たちがよりタイトに演奏できたこと」ではありませんでした。「お互いの音をまったく新しい方法で聴くことができ、それでいて自分たちらしさを失わずにいられたこと」だったのです。
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