
なぜプロのエンジニアは伝説のアナログコンプレッサーを選ぶのか?
この記事では、伝説的なアナログスタイルのコンプレッサーを紹介しながら、多くのミキシング・エンジニアが好んで使用する理由や、ミックス・マスタリングで最適に活用できる場面について解説していきます。
2025.03.18
デジタルコンプレッサーと、アナログコンプレッサーの違い
デジタルコンプレッサーは信号のレベルやダイナミクスのみを調整し、トーンや音色には影響を与えないように設計されています。ダイアログの処理や楽曲のマスタリングなど、精度が求められる場面ではデジタルコンプレッサーを使うことで、クリアな音質を保ちながらダイナミクスを整えることができます。
一方でアナログスタイルのコンプレッサーは、信号に色やキャラクターを加えることで知られています。適度にかけることで穏やかなサチュレーション(倍音の付加)をかけたり、強くかけることで荒々しい歪みを加えることができます。アナログ機材といえば「厚み」や「温かみ」といった表現がよく使われますが、実機のアナログコンプレッサーや、そのプラグインエミュレーションでも同様の特徴が再現されています。たとえば、ドラムに少し荒々しさやキャラクターを加えたい場合や、ボーカルに温かみや厚みを持たせたい場合は、アナログスタイルのコンプレッサープラグインを選ぶとよいでしょう。
SSL G-Master Buss Compressor:一体感がある伝説のサウンド

G-Master コンプレッサーは、もともとSSL 4000シリーズのコンソールに搭載され、その名を広めた伝説のコンプレッサーです。このコンプレッサーは ステレオVCAコンプレッサー であり、各チャンネル単体ではなく ミキサーのマスター出力(バス) に使用されていました。その結果、カラフルなトーンとスムーズなキャラクターを持つことで高く評価されました。特に、ミックス全体を「接着」し、一体感のあるサウンドにまとめ上げる力があることで、世界中のミキシング・エンジニアから信頼されています。
プラグインならではの追加機能
Wavesの G-Master Buss Compressor は、オリジナルのハードウェアコンプレッサーをSSLの公式ライセンスのもとでモデリングしています。オリジナルの機能を完全再現しつつ、いくつかの便利な追加機能を搭載 しています。
- Mixノブによるパラレルコンプレッション:原音と圧縮後の音をブレンドできる
- Autofade Releaseの調整:リリースタイムの設定が難しいと感じる場合に便利
- 外部サイドチェイン入力:特定の音に応じた圧縮が可能になり、より柔軟なダイナミクス制御が可能
SSL G-Master Buss Compressor を使えば、ソリッドなドラムバスのサウンドを作り出し、ミックス全体に伝説的なSSLの「まとまりのあるサウンド」を加えることができます。
CLA-76 Compressor:超速なダイナミクス制御

CLA-76は、FET(Field Effect Transistor)回路を採用しているため、トランジェント(音の立ち上がり)への反応が非常に速いのが特徴です。ハードウェアの特性や挙動を忠実に再現するよう設計されており、繊細で透明感のあるレベルコントロールから、極端なコンプレッションまで幅広く対応できます。以下のような用途に最適です。
- ドラムのピークをコントロール(特にスネアやキックのアタックを調整)
- ボーカルの破裂音(ポップノイズ)を抑える
- ギターの強すぎるピッキングを自然に整える
また、オリジナルのハードウェアに搭載されていた「All Buttons In モード」も完全に再現されています。このモードでは、すべてのレシオボタンを同時に押すことで、過激なクラッシュコンプレッション効果を生み出し、元の機種を象徴する特徴的なサウンドを作り出します。
おすすめの使用シーン
- パンチのあるドラムを作りたいとき
- ボーカルの細かいニュアンスを維持しながらダイナミクスを整えたいとき
- ギターのピッキングをコントロールしつつ、サウンドにエッジを加えたいとき
CLA-76 Compressor を使えば、爆発的なダイナミクス制御を瞬時にセットアップできるため、素早い作業が求められるプロの現場でも強力なツールとなります。
API 2500 Compressor:オーディオの歴史に名を刻むオールラウンダー

APIは、クラシックなアナログハードウェアの世界でトップクラスのブランドとされており、その中でも API 2500 Compressor は、オーディオの歴史に名を刻む名機のひとつです。多彩なモードと設定を備えているため、非常に汎用性が高いのが特徴です。通常のコンプレッサー設定に加えて、以下のようなユニークなコントロールを搭載しています。
- 可変リリースモード:リリースタイムを柔軟に調整可能
- 可変L/Rリンク:ステレオ信号の左右のリンクをゼロにすることで、デュアルモノモード(左右独立処理)も可能
- 3種類のKneeカーブ:音の圧縮特性を細かく調整可能
- API独自の「Thrust」コントロール:入力信号にハイパスフィルターを挿入し、コンプレッサーのレスポンスを調整
- 「New」モードと「Old」モード:圧縮特性を切り替え、より柔軟なサウンドメイクが可能
おすすめの使用シーン
- ドラムバスでパンチ感と迫力を加える
- ミックスバスにかけて、サウンドのまとまりを強化
- ステレオイメージを柔軟にコントロールしながら、自然なダイナミクスを実現
API 2500 Compressor は単なるコンプレッサーではなく、ミックスに絶妙なパンチとまとまりを与える万能ツールです。どんなトラックにも適応できるオールラウンダーです。
CLA-2A Compressor/Limiter:音楽的で滑らかなコンプレッション

数あるアナログコンプレッサーの名機の中でも、CLA-2Aはおそらく最も伝説的な存在と言えるでしょう。このエレクトロ・オプティカル(光学式)チューブコンプレッサー(通称:オプトコンプレッサー)は、非常にシンプルなコントロールを持ちながら、周波数依存のアタック&リリース特性と、独特の倍音サチュレーションを信号に与えることで知られています。CLA-2Aには、以下のようなシンプルながら強力な機能が搭載されています。
- コンプレッサーモード(Ratio 3:1)とリミッターモード(Ratio 100:1)の切り替えが可能
- メイクアップゲインとピークリダクションの2つの基本コントロールのみ
- ピークリダクションのスケールは非線形で、設定のバランス次第で多彩なコンプレッション&リミッティングが可能
- 周波数によって変化するアタック&リリース特性により、非常に音楽的でスムーズなダイナミクス処理が可能
特にボーカルに対して驚くほど効果的であり、ダイナミクスを自然かつ音楽的に整える能力が評価されています。
おすすめの使用シーン
- ボーカルに温かみと滑らかさを加えたいとき
- ベースギターやストリングスに、自然なコンプレッションを適用したいとき
- アコースティック楽器のダイナミクスを整えつつ、ナチュラルな響きを維持したいとき
CLA-2Aは、音楽的で滑らかなコンプレッションを求めるなら最適な選択肢です。
CLA-3A Compressor/Limiter:CLA-2Aの反応速度が大幅に向上
CLA-3Aは、伝説的なCLA-2Aの後継機として登場しました。そのため、CLA-2Aと同じような音楽的なコンプレッションを持ちながら、より高速なレスポンスを実現しています。ハードウェアの設計としてはCLA-2Aと多くの共通点があります。しかし、オリジナルのハードウェアと同様に、CLA-3Aはダイナミクス信号に対する反応速度が大幅に向上しています。そのため、CLA-3Aは以下のような用途に最適です。
- トランジェントが豊富な楽器(ドラム、パーカッション、ピックで弾かれるギター)
- 力強くダイナミックなボーカルパフォーマンス
- アタックの強いベースラインのコントロール
おすすめの使用シーン
- スネアやキックドラムにアタック感を残しつつダイナミクスを整えたいとき
- アコースティックギターやエレキギターのピッキングを際立たせたいとき
- エネルギッシュなボーカルをよりタイトにコントロールしたいとき
CLA-2Aに比べて速いレスポンスを持っているため、よりアグレッシブなコンプレッションでパンチのあるサウンドを作りやすくなっています。
Abbey Road RS124 Vintage Compressor:ビートルズのようなヴィンテージ・サウンド

伝説的な Abbey Road Studios には、長年にわたって数々の「秘密道具」が存在してきました。そのうちのひとつが、改造された Altec 436B コンプレッサーである RS124 です。このコンプレッサーは数十年間棚に眠っていましたが、ビートルズの象徴的なサウンドを再現するための研究過程で発掘され、再び注目を浴びることになりました。Waves Abbey Road RS124 Vintage Compressorでは、歴史的なRS124コンプレッサーの音色と挙動を忠実に再現しています。さらに、オリジナルハードウェアにはなかったいくつかの強力な追加機能が搭載されています。
- SuperFuse モード:極端なコンプレッションを適用し、よりアグレッシブなサウンドを実現
- Studio / Cutter Unit タイプの選択:オリジナルのRS124は個体ごとに音が異なっていたため、それを再現
- 入力フィルター:コンプレッサーの反応をカスタマイズ可能
- Mix コントロール:パラレルコンプレッションを簡単に調整
おすすめの使用シーン
- ビートルズのようなクラシックなヴィンテージ・サウンドを再現したいとき
- ウォームで音楽的なコンプレッションをボーカルやストリングスに適用したいとき
- パラレルコンプレッションを活用して、ミックスに独特の厚みを加えたいとき
Abbey Roadの音楽的遺産を体感できるRS124コンプレッサーで、その歴史的なサウンドをミックスに取り入れてみてください。
PIE Compressor:歪みが少ない自然な処理
PIE Compressor は、1960年代の Pye コンプレッサーをモデルに設計されたバスコンプレッサーです。ドラムバス、ボーカルバス、さらにはミックスバスにも適用できる万能なコンプレッサーとして知られています。パルス幅変調(Pulse-Width Modulation)技術を活用することで、素早く透明感のあるコンプレッションを実現し、歪みが少ない自然な処理が可能です。
- スムーズで透明感のあるコンプレッション
- 低歪みでナチュラルなバスコンプレッション
- ドラムバス、ボーカルバス、ミックスバスに最適
- シンプルなUIで素早く設定が可能
- アナログノイズを加えて、よりリアルなコンプレッションを再現
おすすめの使用シーン
- ミックス全体にまとまりを与えたいとき(ミックスバス)
- ドラムバスで自然なコンプレッションをかけたいとき
- ボーカルグループのダイナミクスを整えつつ、透明感をキープしたいとき
直感的なレイアウトにより、バスやグループチャンネルに挿して簡単に透明感のあるバスコンプレッションを得ることが可能です。

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