マーク・ロンソンが語る、作品の仕上げかた
ブルーノ・マーズの『Uptown Funk』のタフなサウンドの秘訣とも言えるプラグインは?エイミー・ワインハウスの『Back to Black』のレコーディングで使用したドラムマイクの本数は?5回にも及ぶグラミー賞を受賞したプロデューサー、ミュージシャン、DJマーク・ロンソン(ブルーノ・マーズ、エイミー・ワインハウス、アデル)の独占インタビュー!
2020.01.01
In the Studio with Mark Ronson
音楽界の生き字引とも言うべきマーク・ロンソンは、過去50年間のライナーノーツと、誰がどのアルバムで何をプレイしたかを正確に記憶しています。しかしもちろん、エイミー・ワインハウスの『Back to Black』やブルーノ・マーズの『Uptown Funk』のようなアルバムを生み出すのには、それ以外にも様々なことが必要でした。
私たちはL.A. Sound Factoryで、Queens of the Stone Age(以下QOTSA)の最新アルバム『Villains』のレコーディングを終えた直後のマーク・ロンソンに会うことができました。これまで何に影響を受けてきたか、またヒップホップ全盛期にニューヨークでDJの仕事を通じて培った音楽プロデューサーとしての仕事のスタンス、さらにはお気に入りのスタジオ機材などについても話してくれました。
QOTSAのプロデュースをしてみて、どのような感想をお持ちですか?
異なるジャンルのアーティストの持つ個性的なエッセンスを維持しつつ、あなた独自のタッチを足す方法に関して、何か秘訣はありますか?
このレコードでは、[QOTSAの] Joshはかなり明確なビジョンを持ってきていた。彼は非常に明確でタイトなビート中心のサウンドを求めていたんだ。加えて、バンドの各メンバーは素晴らしいミュージシャンだから、すでに多くの準備を済ませてレコーディングに臨んでくれていた。才能に溢れた人々と一緒に制作することができることに、本当に感謝しているんだ。彼らの音楽が大好きだから、僕はここに居ると言ってもいい。
時には偉大な作詞家でもあるアーティストと一緒にスタジオに篭ることもある。僕に目を合わせて、「次のフレーズはどうすべきかな?」と問いかけてくる。そういった状況においては、絶対に具体的な答えを示さないようにしている。何かを提案してしまうことで、彼らの繊細な声に合わないキャラクターを演じさせてしまうことに抵抗があるからだ。彼らを僕みたいな「平凡な作詞家」にしたくはないからね。いつもそのような気持ちを持っているんだ。
歌を歌うことのみしか考えられないアーティストとの共同作業においては、彼らは歌を歌うための下地の全てを僕に提供して欲しいと思っているんだ。もちろん、作曲やトラック制作も少しずつやるアーティストもいる。ときには全く何のゲームプランも持たずに、出たとこ勝負の人もいる。
だから、プロデューサーに最も求められる資質は、アーティストが既に持っているいい面や才能のスイートスポットを見つけることで、極力そういったことの邪魔しないということだと思っているんだ。
Queens of the Stone Age『Villains of Circumstance』
あなたのアルバムでは、レトロで重厚感のある質感に、パンチの効いたヒップホップ/ダンストラックを大胆に組み合わせています。このデジタル時代において、どのようにしてヴィンテージサウンドを得ていますか?
楽器やアンプ、ドラムを録音するときは、マイクの配置とトーンコントロールに配慮して、間違いなくそのサウンドを録る必要があるんだ。後からでも修正できる、なんて考えちゃダメだ。Dap-Kingsのレコーディングや、エイミー・ワインハウスの『Black to Black』や『Valerie』をレコーディングしていたとき、僕らはドラム用マイクを1本しか持っていなかった。後でバランスを変えたり、ハイハットを持ち上げたりすることができないんだ。ハイハットが正しい音量で演奏されているかを確認したら、あとは必要に応じてマイクとの距離を調節することで、欲しいサウンドが録れるかどうかをチェックするんだ。
そのようなレコーディングでは、強い意図が必要となる。後から修正や調整ができないため、演奏とレコーディングに関する全ての要素において、高い正確性が必要だということを気づかせてくれるんだ。実際の楽器を演奏するミュージシャンは、いつでも人前で高いクオリティの演奏を行うことができるんだ。
ミキシングの機材で役立つものは?
プラグインに関して言えば、2000年にNikka CostaとPro Toolsで初めてのレコーディングセッションを行って以降、Wavesは僕のワークフローの一部になった。それ以降、Wavesのプラグイン、特にRenaissanceシリーズは僕にとっての必須アイテムになった。Renaissance EQとRenaissance Voxプラグインの使い方は熟知しているので、完全に体が覚えているような状態になっている。CPUに負荷をかけずに、素晴らしい効果をもたらしてくれる。使いたい時にすぐに使えて、寄り添ってくれるんだ。
普段最もよく使うプラグインは、CLA-3A Compressor だと思う。『Uptown Funk』で仕事をしていたときに、プロデューサーのJeff Bhaskerに紹介してもらったんだ。ボーカルやベーストラックで立ち上げることで、少しタフなサウンドにしつつ、真ん中にきっちり音がキてくれる。
WAVES APIのプラグインは、アナログのフィーリングを得るのにも最適。あんまり時間が取れない場合も、プリセットの微調整をすることで、大幅に効率化できる。
Waves L2 Ultramaximizerはずっと使い続けてる。スタジオには実機のハードウェア、例えばdbx 160コンプレッサーは2台しか持っていないので、アナログチャンネルがなくなるとWaves dbx 160 compressorを使うんだ。あと、H-Delayは特にボーカルに多用してる。
それと、Manny Marroquin Signature Seriesが大好きだ。Mannyの仕事はエンジニアとして、特にカニエ・ウエストのアルバムなんかで聴けるんだけど、ヒップホップやR&Bから少し外れた、ややエキセントリックでサイケデリックなテイストを加えているのが本当に面白いと思う。 彼のプラグインを使うことで、そういった感覚をリアルに感じられるんだ。プラグインを使うだけで、Mannyがまるでそこに座っているかのようなサウンドが得られるんだ!
Mark Ronson featuring Bruno Mars 『Uptown Funk』
スタジオでよく使うヴィンテージ・アナログ・ギアは何ですか?
レコーディング、特にドラムのレコーディングではPuigteq EQをよく使う。絞ったりブーストしたりするだけで、特別なサウンドが得られるからね。
少しアグレッシブさを足しつつ、暖かみのあるサウンドが得られる。それで十分。
他の点においては、常にフレキシブルでいるようにしている。特定の卓で作業する必要が無いからね。
あなたの手がけた楽曲を聞くと、様々な時代、テクスチャ、そしてバイブレーションを組み合わせた、音楽の変遷を辿ることができます。そのような幅広いスキルを、どのようにして身につけたのでしょうか?
音楽に取り憑かれて育ったと思う。音楽が心底好きで、レコードを集め、それこそ6〜7歳の時からすべてのライナーノートを読んで過ごしてきた。それと、なぜか古いBillboard誌を読むのが好きだった。小さな頃から、音楽業界のあらゆる面について知りたいと思っていたんだ。
いつも複数のジャンルのファンだった。デュラン・デュランやカルチャー・クラブのようなバンドを聴きながら80年代のイギリスでの日々を過ごした後、ニューヨークに移ってヒップホップにハマったけど、一方ではガンズ・アンド・ローゼスも大好きだった。イギリスに戻ると、今度はストーン・ローゼズやハッピー・マンデーが好きになった。それから、ファンク&ソウルと出会ってヒップホップに恋した。サンプリングの元素材が何かを知っておく必要があったからね。例えばBusta Rhymesの“Put Your Hands Where My Eyes Can See”がリリースされた直後。すぐにレコード店に行って、サンプリングの元ネタであるSeals and Croftsのレコードを買ってくる必要があった。クラブで回すことができるようにね。
それらすべてが仕事の仕方を決めてくれる。スタジオに入って曲を作るとき、今までの経験が勝手に染み出してくるんだ。いつも頭の中で仕事の進め方を考えているわけじゃないのさ。
大学に行こうと思った当時、現代的な音楽史を学べるコースなんてなくて、あったのはクラシック音楽の専攻のみ。クラシックの音楽家を志す人なら、モーツァルト、ベートーヴェン、バッハなどの偉大なクラシック作曲家について学ぶらしい。僕は現代的な音楽の学者になりたかった。これは我々の世代にとっては、スティーヴィー・ワンダー、スティーリー・ダン、ア・トライブ・コールド・クエストなどの偉大な音楽について勉強することを意味するのさ。
ナイル・ロジャースやフェラ・クティのバンドのギター、ジェームス・ブラウン作品のドラマーのリズム、ジェームス・ジェマーソンのベースのモータウンリズムセクションのように、個人的に大きな影響を受けた明確なサウンドがあるんだ。もちろん、彼らのようには演奏できないけど、受けた影響はずっと持ち続けてる。
それから、Public Enemy、The Bomb Squad、そして初期のRick Rubinの作品も外せない。Organized NoiseやOutKastからも大きな影響を受けた。そういった影響を受けながら、いつもいろいろな種類の音楽に取り組んでいるのさ。
DJを経験したことは、音楽プロデューサーとしてのキャリアにどのような影響を与えていますか?
DJを通じて成長してきたと思う。小さくて、汗だくになって踊るクラブで、ストライドをヒットさせるのさ。すると、部屋の中の反応をダイレクトに感じることができる。直接的なリアクションが返ってくるのがたまらなかった。
DJとスタジオ作業に共通して言えることは、僕には競争力があるってこと。一曲だけ手がけていると、誰でもその曲を目立たせたいと思うよね?でも、アルバム全体に取り組むと、名盤から受けたあの感覚を得たいと思うようになる。最近は10人の異なるプロデューサーと仕事をしているようなアーティストもいたりして、各曲のプロデューサーがシングルカットを狙っているから、そういったことには苦労することも多い。昔の名盤は、10のヒット曲の寄せ集めではないんだ。弧を描くように、ムードを変化させていく必要がある。アルバムを聴くときは、10曲連続して顔に強烈なパンチを受けたくはないよね。アルバムを聴く人を、ちょっとした旅に連れて行きたい。いい仕事ができれば、そんなことも可能になるんだ。
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