11のステップでプロのサウンドへ。ドラムのミキシング
コンプレッションやEQの設定、位相トラブルの修正方、さらにトランジェントのコントロールまで、ドラムミックスの"いろは"を学んでいきましょう。 さらに、パラレルコンプレッションやリバーブを使い、深みと奥行きを加える応用テクニックも合わせて、プロのドラムサウンドへの11のステップをご紹介いたします。
2020.01.01
Step 1 : Fine tuning
ドラムはそもそもメロディックな楽器ではありませんが、実はちゃんと音程を持っており、音程が合っているかどうかを確認することは極めて重要です。Torqueは、ドラムサウンドのルートノートを変更するために特別に設計されています。可能であれば、キックとスネアを、ルートまたは曲のキーの5度に合わせてチューニングしてみてください。これだけでも曲の変化がわかるほどの効果があるでしょう。
タムは通常、あなたの使っているタムの数に応じて、楽曲のキー内の異なる音程にチューニングされます。例えば、完全4度や、時にはメジャー3度の音程にチューニングするのが一般的でしょう。一部のプレイヤーやプロデューサーは、曲の中でドラムサウンドでコードを作るようにそれらをチューニングすることもあります。
トラックのメロディックな要素と音程を同期させるという細かい作業は、全体のサウンドの引き締めに非常に効果的です。
Step 2 : 位相の問題を修正する
ドラムのチューニング後、トラック間において、位相関係が損なわれていないか確認が大切です。トラック間で位相がずれていると、特定の周波数がアンバランスに聞こえたり、完全に消えてしまったりする「位相キャンセル」が発生することがあります。
なぜドラムでは位相のズレが多いのでしょうか?それには「ドラム」という楽器の構成とレコーディングにおけるマイクの物理的な距離を考える必要があります。ドラムキットの中で最も音量が大きく、分かりやすい音であるスネアの場合を例にすると、スネアの打点から音が外側に飛んでいき、まず、音源に最も近いマイクが最初に音を捉えます。その後、オーバーヘッドや、ドラムから離れた位置にあるルームマイクが、わずかな時間差ではありますが、遅れて音を録音します。
すべてのマイクで、同じタイミングでスネアを録音し再生されるように思えますが、実はそれぞれのマイクがスネアからの距離が異なるため、別々の距離、異なるタイミングでスネアの音を録音しています。そのため、すべてのマイクの音を同時に再生すると、位相のばらつきや音の「もやつき」が発生してしまいます。位相の問題を修正するには、オーバーヘッドやその他の離れたマイクで録音された音声データをDAW上で調節して配置します。このようにして、キット全体のサウンドを可能な限りクリーンにするのがよいでしょう。
Step 3 : ゲートとトランジェントでのコントロール
イコライジングの前にダイナミクス処理を施すのが好きなエンジニアもいれば、イコライジング後にダイナミクス処理を施すのが好きなエンジニアもいます。どちらでも構いません、それぞれの方法でサウンドが異なることに注意して、自分のワークフローに合った方法を試してみてください。
ドラムをレコーディングする場合、ほぼ確実に「音の被り」が発生します。他のドラムパートの音が別のマイクに「入り込んで」しまうのです。個々のサウンドを最大限にコントロールするために、エンジニアはゲートとエキスパンダーを使用します。このテクニックは、クリーンなキックやスネアの音を実現し、隣のドラムやシンバルからの干渉をあまり受けずにコントロールすることに役立ちます。
ゲートを追加してみましょう。スレッショルドを越える音量までは、音量のレベルをゼロに設定し、目的の音(スレッショルドを超えた音)だけを通過させることで、サウンドをクリーンアップします。ゲートは、Scheps Omni Channelのようなチャンネルストリッププラグインや、SSL E-ChannelやSSL G-Channelに搭載されています。
問題の「被り」のあるドラムチャンネルにプロセッサーをセットし、「被り」がミュートされるまでスレッショルドを下げます。アタックタイム(ゲートが開く速さ)、リリースタイムを調整します。また、エクスパンダー機能を使用して、「被り」を完全にミュートするのではなく、「被り」を定義された量だけ減少させるようにレンジを設定することもできます。
タムの場合、エンジニアがDAWでトラックを編集して、タムが演奏されていない間のオーディオを削除することがあります。タムを叩いた時のトランジェントに合わせてカットし、サウンドが減衰していくのに合わせてフェードをかけ、自然な形でドラムキットの中になじませていく。このように様々な方法で音の「被り」を避けていくのです。
Step 4 : 引き算としてのEQ
通常、引き算としてのイコライジングはSSL E-ChannelやSSL G-Channelのようなパラメトリック EQ を使用して行います。レコーディングで問題のある部分を特定するために、Q値の上げた鋭いバンドを使用してみてください。スネアのボディの頑固な共鳴など、問題のある周波数を特定するのに苦労している場合は、このスイープテクニックが有効です。
- EQバンドの1つをQの数値を高くしバンドを鋭くします。
- さらにそのバンドのゲインを上げてください。
- そのバンドの利用可能な周波数をゆっくりとスイープしていきます。
- 特に不快な周波数を耳にしたところで、停止させましょう。
- 次に、その周波数をブーストする代わりに、音量を下げます。
- Qの値を調整し整えます。
Step 5 : 足し算としてのEQ
足し算としてのイコライジングは、通常、より広く、より「色付け」をするEQを使用して行われます。API 550やAPI 560に搭載されているAPIコンソールのサウンドを好む人もいれば、Scheps 73に搭載されている「ロックサウンド」を好む人もいます。また、RS56 Passive EqualizerやPuigTec EQのオールドスクールなサウンドを好む人もいるでしょう。
ここでは、キット内の各ドラムをEQする際に注目すべき周波数帯をいくつかご紹介します。
キック
- 低域:50Hz - 100Hz - パワーを追加するのに最適ですが、強調しすぎるとブームを引き起こす可能性があります。
- 中低域:100Hz - 250Hz - 太さを加えるのに最適ですが、強調しすぎると濁りの原因になります。
- 中域:400Hz - 800Hz - 強調しすぎてると音がこもっているように聞こえます。
- 中高域:3kHz - 5kHz - スナップ、アタック、ビーターノイズの追加に最適。上げ過ぎには注意。
スネア
- 低域:100Hz - 250Hz - 太さを加えるのに最適ですが、強調しすぎると濁りの原因になります。
- 中域:400Hz - 1kHz - 通常、スネアのリングサウンドが鳴る帯域。
- 中高域:3kHz - 5kHz - スナップとアタックを追加できる。上げ過ぎは注意。
- 高音域:10kHz - '空気感'を追加するのに最適ですが、上げ過ぎには注意。
タム
- 低域:65Hz - 100Hz - フロアタムにパワーを加えるのに最適ですが、強調しすぎるブームになる可能性があります。
- 中低域:100Hz - 200Hz - ラックタムにパワーを加えるのに最適ですが、強調しすぎる濁りの原因になります。
- 中域:400Hz - 800Hz - あまりにも質量が多過ぎてしまうと音がこもっているように聞こえます。
- 中高域:5kHz - 7kHz - スナップとアタックを追加できる。上げ過ぎ注意。
シンバル/オーバーヘッド
- 中低域:200Hz - 500Hz - シンバルに "太さ "を付けるのに最適ですが、大きい場合、濁りの原因になります。
- 中高域:3kHz - 5kHz - 存在感を追加するのに最適ですが、ブーストし過ぎはボーカルとぶつかってしまいます。
- 高音域:7kHz - 12kHz - "空気感 "を追加するのに最適
Step 6 : コンプレッション
周波数スペクトルのバランスを整え、ドラムの「被り」をコントロールしたら、次はダイナミクスに焦点を当ててみましょう。コンプレッションは現代的なドラムサウンドを実現するためのコツです。
キックとスネアに3~6dBのゲインリダクションをかけるのがよいでしょう。タムも同様に圧縮されることがありますが、それは曲の中でどれくらいの頻度で使用されるかによります。シンバル、オーバーヘッド、ルームマイクをコンプレッションをするかどうかはジャンルなどによって異なってくるでしょう。
コンプレッションの量と同様に重要なのが、コンプレッションの時間設定です。
アタックタイムを遅く設定すると、最初のインパクトが圧縮される前に、音は通過し、さらに遅い設定にすると、コンプレッサーがドラムのヒットを完全に見逃します。逆に、アタックタイムを速く設定すると、サウンドのトランジェントが薄まり、パフォーマンスをタイトに聴かせることができるでしょう。
相対的に速いリリースタイムは、知覚される音量を大きくし、ドラムを全体の中で押し上げるのに役立ちますが、速すぎると不自然なポンピングサウンド(音量の揺らぎ)を引き起こしてしまいます。
多くのエンジニアは、ドラムのコンプレッションを設定して、まずトランジェントのアタックの一部を通過させ、ドラムのディケイをより聴きやすくするためにリリースタイムを設定することで、知覚エネルギーを増加させています。コンプレッサーのオン/オフを比較して、追加されたダイナミクス処理の効果を確認しながら作業を進めましょう。
最適なアタックタイムとリリースタイムを見つける簡単な方法は、最も遅いアタックと最も速いリリースから始めることです。最初のトランジェントのインパクトが失われ始めるまでアタックタイムをゆっくりと短くしていきます。その後、コンプレッサーが曲に合わせて「息を吹き込む」ようになるまで、ゆっくりとリリースタイムを上げていきます。ドラムがヒットすると針が3-6dB跳ね上がり、0に戻る直前に、次のドラムのヒットで針が3-6dB跳ね上がります。
正しく行えば、ドラムが生き生きとしているように感じられ、より音楽的にダイナミックなミックスが可能になります。ドラムに使用されるコンプレッサーでは、SSL E-ChannelとSSL G-Channel、V-Comp、API 2500などがおすすめです。
Step 7 : リバーブ
奥行き感を加えるために、エンジニアはAuxセンドで個々のドラムトラックをリバーブに送ります。リバーブの具体的な設定は曲によって異なりますが、その長さはテンポと相関していることが多いでしょう。
例えば、多くの場合、スネアがヒットしたとき、次のスネアがヒットする直前までリバーブのテールが減衰しているのがはっきりと聞こえるはずです。これは好みの問題ですが、次のスネアヒットの前にリバーブテールがフェードアウトしなければ、長すぎると感じるかもしれません。
次に、元のドライなトラックにAuxからのリバーブの音をブレンドし、目的の空間を作ります。極端なエフェクトを使用しない限り、リバーブチャンネルがミュートされているような見逃してしまうほどの音量でも効果を得ることができます。
Step 8 : パラレルコンプレッション
ドラムサウンドに厚みを持たせたり、盛り上げたりするには、パラレルコンプレッションを試してみるといいでしょう。これはAuxトラックを設定して、ドラムキットから様々なチャンネルを送って処理し、元のドラムの音と並列にブレンドします。サウンドに応じて、スネアとハイハットだけを送ったり、オーバーヘッドのタムを加えたり、他のドラムと一緒にパラレルチャンネルのドラムバスに送るのもよいでしょう。
さらにパラレルチャンネルにサチュレーションなどの処理を加えれば、壮大なドラムの音が得られるかもしれません。エンジニアの中には、パラレルドラムを完全にコンプレッションされた、飽和したサウンドに設定する人もいます(10:1のレシオの設定を想像してください)が、それだけでは必ずしも望むサウンドではありません。しかし、ドライなドラムサウンドとブレンドすると、そのサウンドはドラムキットを重要な形でサポートする「力強さ」を与えてくれるかもしれません。
Step 9 : バスチャンネルコンプレッション
バスコンプレッションは通常、個々のチャンネルに適用されるコンプレッションよりも繊細なもので、ドラムキットを「接着」するのに役立ちます。
レシオは通常2:1程度に抑えられています。アタックタイムはゆっくりとしたものにして、キットのトランジェントがパンチを効かせるようにします。リリースタイムはトラックのテンポによって異なりますが、SSL G-Master Buss Compressorのような多くのコンプレッサーに搭載されているオートリリース機能を使用することも珍しくありません。
コンプレッサーの中には、ドラムを扱う際に非常に便利な機能を持っているものがあります。例えば、API 2500はスレッショルドディテクターに独自のハイパスフィルターを搭載しており、キックのような低音域がコンプレッサーを積極的にトリガーするのを防ぎます。これは、ローエンドに追加されたサウンドエネルギーがコンプレッサーをトリガーしやすくなり、シンバルやトップエンドもそれに伴って下に引きずり下ろされてしまうのを防ぐ便利な機能です。
C4 Multiband Compressorのようなマルチバンド・コンプレッサーは、周波数スペクトル内の各パートを独立して処理できるため、ドラムバスのコントロール性がさらに向上します。
Step 10 : ディストーションでアグレッシブさを加える
この時点で、ドラムの音はかなりうまく "ミックス "されているはずです。音色やダイナミクスの観点から見ても、ドラムはトラックの中にうまく収まっており、ボーカルの邪魔になることはありません。しかし、ドラムのサウンドにエッジを効かせ、攻撃性を加え、ジャンルによっては、リスナーにもう少しハードに響かせたいとしたらどうでしょうか?パラレルディストーションを追加してみましょう。これにより、あなたのドラムがミックスの中で「主張をする」ことができるようになるでしょう。
MDMX Distortion Modules を Aux センドに立ち上げ、ドラムバスの信号をこのパラレルドライブチャンネルにルーティングしてみてください。ドラムに厚みと色が加わったような感覚がすぐに得られるはずです。曲に合ったサウンドを得るために、ディストーションシェイプとゲインノブを弄ってみましょう。プラグインのコンプレッション設定をいじって、ディストーションのダイナミックな特性を変えることもできます。MDMX Distortion Modules のEQをシェイプすることで、ミックスの中でより大きな音を出したい特定の周波数領域を微調整することができます。
Step 11 : オートメーションを描く
すべてのDAWでは、ボリュームオートメーションを書くことができます。例えば、ミックスがうまくできた後、曲中の各ドラムチャンネルをよく聴いてみてください。サビのグルーヴにおいてハイハットの音量はバッチリだが、他のセクションで聞くと少し物足りないことに気づくこともあるでしょう 。あるいは、特定のセクションでは1dB上げるだけで、曲にインパクトが出てくる場合もあるでしょう。
ミックスプロセスの最後に、オートメーションを使い、さらに細かいディテールを設定することで、ミックスの中でドラムのサウンドをさらにタイトにし、全体的なアレンジをリスナーに伝えることができます。
最後に、今回紹介したガイドラインがスタートラインです。それぞれの音に耳を傾け、理想のドラムサウンドとアレンジをイメージし、微調整を重ねイメージに近づけていく。常に創造的であることを忘れないでください。
そして、その先に、最高のドラムサウンドが待っていることでしょう。
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