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マニー・マロクウィン、ミックスの金言。ケンドリック・ラマー作品を語る

マニー・マロクウィン、ミックスの金言。ケンドリック・ラマー作品を語る

世界中でもっとも忙しいミックスエンジニアの一人、マニー・マロクウィンに、彼が手がけたケンドリック・ラマーの5thアルバム「Mr. Morale & the Big Steppers」での仕事について話してもらいました。各トラックのエモーションを引き出すためのアプローチ、彼のEQ論、そしてローエンドに対するアプローチやヒントなどをご覧ください。

2023.03.25


- マニー!ケンドリック・ラマーのアルバムについてあなたと話せるのが楽しみでしたが、その前にあなたがミックスしたファレルの新曲「Crash In Cash Out」を聴いたらもう、最高でしたよ。

あの曲は私も大っ好きな曲の1つだよ。実は最初にファレルが電話してきたとき、この曲はネプチューンズのカムバックのための曲になるはずだったんだけど、そのまま彼自身のリリースになったんだ。「俺は帰ってきたぜ、motherf**kers!」って感じでね。

プシャ・Tとやったファレルの作品は、ケンドリック・ラマー以外に手がけた今年の作品の中でお気に入りの1つさ。彼が半分プロデュースし、もう半分をカニエ・ウェストがプロデュースしたんだけど、これがすごかった。古き良き、これぞヒップホップって感じでね。ケンドリック・ラマーの作品もそうだけど、いずれも私のお気に入りのアルバムたちだね。

- ケンドリック・ラマーのアルバム「Mr Morale & the Big Steppers」の大成功、おめでとうございます。アルバムを聴いて思ったのは、あなたらしいミックス...特にジュース・ワールドとかポスト・マローン辺りを思い浮かべてみると、どこか「あなたらしくない」と感じる部分もありました。同じ人がミックスしたもの?とさえ思ったんです。

正直なところ、私は「何にも似ていない」ということにプライドをもって仕事をしているから、それは嬉しい褒め言葉だね。さっきプシャ・Tとファレルの話をしたけど、今は1975やフェニックスという、音楽的にも全く違うジャンルの曲をミックスしているんだ。ファレルをミックスしている人が、1975をミックスしてるとは思わないでしょ?私は常にカメレオンのような存在で、どんな作品にも対応できるということを心がけている。必ずしも音だけを求めているわけじゃない。

私はいつも「ボリュームを上げた時にどう感じるか?そこから得られる感情は何だろう?」という観点でミックスに取り組んでるんだ。例えばフェニックスの場合、サビでギターが目の前に張り付くような音像になってることもあるよね。あれはもちろんそういう意図があってやったものだけど、強調すべきものを強調すればいいじゃないか、って思ってやった結果だよ。

ケンドリック・ラマーのアルバムのミックスは、全ての曲の感情を表現し、それぞれの曲に個性を持たせることが私の役割だった。このアルバムは重いテーマを扱っていて、ワインを1、2杯飲むか、マリファナを吸うか、ヘッドフォンをする必要があるくらいだ。ぜひこのアルバムを最初から最後まで、歌詞を見ながら聴いてみてほしいね。かなり没入してしまうはずだよ。

- このアルバムは、これまでのケンドリック・ラマーらしさとは一線を画す異なったスタイルだと思いました。このアルバムで彼は、近年のヒップホップやポップミュージックから離れようと意図していたのでしょうか?

100%その通り。私たちはこれについても語り合った。アルバムのVol.1には彼独自のカルチャーに対して語りかけるかのようなシーンがイースターエッグのように仕込まれてている。「こいつら本当は買う余裕もないくせに、グッチやプラダを着てる」みたいな悪評さ。でもケンドリックは、「オレらは世間からそうやって見られているんだよ」と言ってるんだ。そんなことを言われないようにしなきゃいけないし、そんなことを言われるのは、きっと間違った方向に向かって進んでるからだろうってね。

彼のリリックはどれも、過去とかこれから起こる未来のことについて書かれている。「To Pimp a Butterfly」はアフリカについて。「good kid, m.A.A.d city」は彼の過去の生い立ちや環境について。そして今回の「Mr. Morale」は彼自身のことについて描かれた、最もパーソナルな部分に切り込んだアルバムと言ってもいい。世界的なパンデミック、Black Lives Matter問題に関して彼が何も発言しなかった理由、それからアメリカ副大統領との会談などね。家族や闘争、うつ病やセラビー。彼の過去5年間をそのままアルバムにしたものと言ってもいいね。これは彼が一人前になるためのコンセプトアルバムであり、それを表現するための素敵な手段なんじゃないかな。10年もしたらブロードウェイ・ミュージカルになっていてもおかしくないね。

- ケンドリック・ラマーのメッセージが明確に感じられるアルバムだと思うのですが、あなたは制作のどの段階から参加し、音づくりの方向性にどのくらい関わったのでしょうか?

ケンドリックのプロデューサー、Sounwaveが全てのプロセスをまとめてくれたので、私は自分の仕事に集中することができた。私はミックスの段階からの参加だったけど、全ての曲をチェックしてくれて、曲によっては具体的な指示もあったし、反対にこのままでOKというものもあった。ミックスに集中する環境を与えてくれたことが何よりもやりやすかったし、だからこそ自分としても満足感も完成したときの解放感もあったね。

- 「自分の仕事に集中する」とは、具体的にどういったことを指すのでしょう?

どのトラックもアプローチが異なるから、言葉にするのは難しいな。例えばラフミックスを聴いて「ああ、彼らはこんなことがやりたいんだな。さてこれはどうやって表現しようか」と考えるよね。そこでステロイドを注入してみるのさ。「この曲はさっきの曲よりもボーカルが強くないかもな」とか「ここは強調したほうがいいな」というところは自分なりに色々なエッセンスを加えてみたりする。このアルバムはトータルで詩のようなものだから、やっぱりボーカルが最重要でね。もっとオケに馴染ませるほうがいいなとか、逆に浮かせたほうがいいなとか、丸みを出したほうがいいなとか、逆に尖らせたいな、いや、リバーブもいいんじゃない?....なんてね。この作業によってリスナーにどんな影響を与えるかを考えながらね。

ラフから完全に変わった曲もあるよ。ポーティスヘッドのベスが参加した「Mother I Sober」は、もともととても複雑な曲だった。超感動的な曲で、特殊な方法で歌の印象を伝える必要があった。ケンドリックがあんなサウンドを出したことはないと思う。 彼はどの曲でも微妙に異なる音を出そうとしていて、それがとてもクレイジーだと思ったね。


- ポスト・マローンに代表されるようなヒップホップのリバーブサウンドは、もともとあなたが編み出したものですよね?今となってはどこでもあの音を耳にするようになりました。でも、このアルバムは全然違っていて、ボーカルはほとんどドライだし、囁くようなスタイルです。

そうだね。確かに違うアプローチだ。私が携わってきた作品の中でこれに近いスタイルはというと、カニエ・ウェストの「808s & Heartbreak」辺りかな。あの時も、時代の流れと違うアプローチをしようとしていた。ムーディーでダーク、低めのボーカルで、とてもエモーショナル。でも、その数ヶ月前に彼とは「Stronger」を作ったばかりで、全く正反対な作品だったんだけど(笑)あのリバーブは、まったく新しいサウンドを作り出したようなものだった。そして今、みんながそれをやっている。24k Goldn、イアン・ディオール、ザ・キッド・ラロイとかね。

ケンドリックの作品が今までとは全然違うっていうのも分かるよ。ハイテンションでもなく、超ブライトでもなく、クラシックなヒップホップでもなく、感情のままに表現された作品だから心地よく聞こえる。老害みたいなことは言いたくないけど、この作品はTikTok世代とは違うタイプの音にフォーカスを移すことになるような気がするね。

- ケンドリックはボーカルにリバーブをしたくない、と思っていたということでしょうか?

そんなことはないと思うよ。彼はとても優秀なプロデューサーだけど、そのプロセスはとても直感的なんだ。彼は「なんかボーカルがしっくりこないな。オレのボーカルテクニックのどこが違うんだろう」なんて言っててね。他のプロデューサーだとコンプの量を減らしたり、リバーブを上げる位置を正確に指示してくるのとは対照的だ。でも、彼が部屋にいてくれることで、曲に対する彼の気持ちが簡単に読み解けるんだよ。

- 実際のところ、あなたのリバーブプラグイン(Manny Marroquin Revervb)を使うだけで、簡単にポスト・マローンのような音が得られますよね。

そうだね。私は今でもWavesのプラグインは心から最高のプラグインだと思ってる。このプラグインが発売されてからは、全てのミックスで使っているよ。プラグインを売ることが私の仕事ではないので、実は自分が実際に使いたいプラグインを作りたかっただけなんだけどね。

mixing-rod-wave-vocals

それから私のEQ(Manny Marroquin EQ)のある秘密を話すと、みんな「えーそれは知らなかった!」ってびっくりしてくれるよ。あのEQは、実はバンドごとに私が所有しているアナログハードウェアEQをモデルに作っているんだ。だからAvalonのバンド、Neveのバンド、Motown、SSL、API....それぞれが異なる周波数をカバーしているという、スーパーEQのようなものさ。それを教えてあげるとみんなこのEQの大ファンになってくれるのさ。

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ケンドリックのアルバムでは、Manny Marroquin Signatureのプラグインを全部使っている。ケンドリックのボーカルにはManny Marroquin EQを使ったし、リバーブはほどんどManny Marroquin Reverbだ。ディレイだってほぼManny Marroquic Delayだし、ベースを少しクランチ気味にするときにはManny Marroquin Distortionを使ったしね。

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- あなたのスタジオにはハードウェア機材がたくさん揃っているのに、それでもプラグインを使うのですか?

100%使うよ。プラグインだから、ハードウェアだからとかはあまり気にしていない。私は道具を色として捉えていて、必要な色が分かったらそれを選んで使っただけ。プラグインにはある種の色があり、アナログハードウェアには別の色がある。色であったり、形であったり、欲しい音との関連性のことだけを考えているから、必要な時に必要なツールを選ぶのもクイックにできるんだ。それが私のデジタル VS アナログのフィロソフィーさ。

- 曲の途中でマスターバスのコンプレッションをいじって、曲の雰囲気を変えることがあるという話を聞いたことがあります。今回のケンドリックのアルバムを聴くと、グルーヴが変化する曲が多いのでもしかしてその手法を使ったのかなと思ったのですが。

もちろん使ったよ。さっき話した「Mother I Sober」は、どんどん後半になるにつれ盛り上がっていくので、曲の冒頭とは違うアプローチが必要だったんだ。曲の途中でステレオミックスバスに全く違うアプローチを仕掛けることだって全然アリだと思ってるよ。でもビッグな曲が後半の盛り上がりでさらにビッグになってしまうと、LUFSが狂ってしまう。だから、大きく、広く、高く、深くするためにオートメーションやコンプ、いくつものEQを駆使して、曲の盛り上がりに合わせてマスターバスの処理を調整していくんだ。

でも、ファレルの曲「Cash In Cash Out」は違うね。あの曲でマスターバスを途中で変えるなんてあり得ない。なぜなら、この曲は最初からフルスロットルだからさ。ストレートな曲だから、人の耳を惹く別の課題があったよ。マスタリングエンジニアのミシェル・マンチーニは私のスタイルを熟知してくれているので、あまりいじらずにマスタリングしてくれる。自分がやりたいことを理解してくれる人にマスタリングをお願いするのがベストだね。

- ケンドリックのアルバムで私のお気に入りの1つが「Purple Hearts」です。このトラックのドラムは特にすごい!

オーイエィ!面白いことに、チーム全員が部屋に入ってきたときにこの曲を聴かせたらそこらじゅうを飛び跳ね回っていたよ。まるで子供が走り回ってるみたいだった。

- このドラムの音はどうやって作ったんですか?

たぶんコンプだったかな。基本に立ち返ってね。ドラムのステレオバスにコンプを入れて、パンチ感をうまく残したまま潰しすぎないようにした。それから、EQをクリエイティブに使うことだよ。EQはね、スタジオの中にある機材の中で最も強力なツールなんだから。

- コンプよりもEQですか?

間違いない。私は何にせよまずEQを選ぶよ。コンプで潰したものを元の状態に戻すことはできない。EQを使ってコンプされたような音を作ることはできるけど、コンプでEQらしい処理はできない。コンプはトーンシェイパーのように使うことはできるけど、その音色は1種類だけだ。EQで得られる音のバリエーションは無限だからね。

- EQで主にどんなアプローチをしますか?ブースト派?カット派?

私は普段からあまりQを微調整するタイプじゃなく、どちらかといえば大雑把なほうなんだよ。何か特定のものを取り除くときだけはカッチリやるけどね。大切なのは、何にメインにフォーカスするかを考えること。そしてフォーカスしたい音をEQするのではなく、その周囲の帯域を空けるようにする。こうすることで相対的にフォーカスしたい音がより際立つからだね。これこそがEQによるアートであり、絵画とも似ているかもしれないね。例えば赤い色の周りが白のときと黒のときでは、赤の色が違って見えるよね?同じ色のはずなのに、異なる印象をもつはずさ。EQも同じように考えている。

- ローエンドへのアプローチはいかがでしょう?何かあなたなりの哲学をお持ちですか?

ローエンドに関して、私はみんなに "Less is More(少ないことは、豊かなこと)" ということを伝えている。よく「808トラックにはどんな処理をしますか?」なんて聞かれることがあるんだけど、「何もしない」と答える。ファレルのCash In Cash Outみたいにエフェクトをかける場合は別だけど、基本的に808には何もしないほうがいいんだよ。

多くの新進気鋭のエンジニアはどうやらローエンドに「何かしらの手を加えなくてはいけない」と思ってるようなんだけど、私はいつも「ローエンドには何もするな」って話している。これは実にシンプルなことなんだ。何か手を加えると、9割は台無しになる。息を吹き込み、コンプせず、必要なときだけクリエイティブなEQのみにすべきだ。808をコンプし始めると、ローエンドの情報は失われていくんだよ。

エンジニアリングにルールはないんだけど、そこは意識する必要があると思うね。だから "Less is More(少ないことは、豊かなこと)" が私からの一番のアドバイスだね。

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