
ミックスの奥行きは、自由にデザインできる
ミックスの勉強をしていると様々な壁にぶつかることが多々あるかと思いますが、そのうちの1つが「奥行き」というワードでしょう。
私たちが普段行っているミックスは、L(左)とR(右)のステレオ環境。各トラックのパンを使って「ギターは右、シンセは左」なんて配置させることはツマミ1つで簡単にできますが、「ドラムを奥へ」あるいは「ギターを手前へ」という作業は簡単にできません。
ミックスのうまい方であれば、こういった作業をEQやコンプ、あるいはリバーブ(と、音量コントロール)などで行うのが定石ですが、これらのツールで奥行きをサクサクっとコントロールできるようになるには、多くの経験が必要です。ただ単に「遠い音はボリュームを低くする」だけではミックスの奥行きを作ることはできません。
2021.09.28
そんな時に使っていただきたいのが、Smack Attack。望まぬ質感の変化をニアゼロに抑えながら、トランジェント(音の立ち上がりから僅か数ミリセカンドの部分)と、持続するサステイン部分を自由にデザインすることができるプラグインで、音を奥にも前にもコントロールすることができます。
ドラムさん、一歩奥に行ってください
簡単なセッションを用意してみました。使っている楽器はドラム、ベース、エレピ、ギターの4つだけ。この中で、ドラムの奥行きをコントロールしてみましょう。具体的には「ドラムだけが1歩奥に行って欲しい」と思いました。処理前の状態がこちら。
ドラムのトラックにSmack Attackをインサート。すると、リアルタイムにドラムの波形が中央のモニターに表示されます。
このドラム波形を見ながら、音のピークを狙うようにSensitivityを調整します。つまみをグッと回し、あとは"Attack"つまみで奥に引っ込める量を決めるだけです。調整したものがこちら。
この時、ドラム波形に対してこのように表示されます。アタックのごく僅かな頭だけを鈍らせるような処理で、同じ質感のままドラムが一歩奥に行ってくれたかのような音に。特にスネアがベタっと張り付いていた質感が抑えられたようにも聞こえます。
逆に、出すことはできるの?
引っ込めることができるということは、反対に「アタックをもっと出す」ということも可能ということ。質感は気に入ってるけど、ちょっと音が平坦だな、奥に引っ込んじゃってるな、と思う素材があれば、Smack Attackで強調することもできるのです。
同じトラックで実験をしてみましょう。先ほどのトラックのギター、質感は気に入っているのですが、ちょっと平坦で抑揚がない。だからなのか抜けも悪いように感じました。EQやコンプを使うと全体の質感も変わってしまう...わずかにアタックだけを強調したいのです。
そこでSmack Attack。ドラムと反対に"Attack"つまみを右側にグッと回す。そうすると、余計な質感の変化なく、ギターのカッティングに抑揚をつけることができました。グラフィックで見ても、ギターのプレイに合わせて細かくアタックだけが強調されているのが分かります。
僅かな差ですが、この僅かな積み重ねがミックスではとても重要です。
タイトにしたい
Smack Attackは素材のトランジェント(立ち上がり)だけでなく、サステイン部分もコントロールすることができます。これを使って、余韻のあるリズムをタイトに仕上げてみましょう。
まず、オリジナルの状態がこちら。気に入ったループが見つかったので、これを自分の曲で使いたいなと思いました。
質感はすごくいいのですが、スネアに割と深めのリバーブが掛かっていて、他の楽器と奥行きの質感が合いません。ちょっとこの余韻の部分だけが薄まって、タイトになってくれたらいいのですが...そこで、Smack Attackをインサート。
Smack Attack処理後がこちら。
こちらは分かりやすいほど違いがでましたね。Smack Attackでのパラメーターはこんな感じ。Smack Attackで行ったのはSensitivity(黄色の横線)を合わせて"Sustain"のツマミを下げただけ。グラフィックで見てみるとアタックの瞬間はなるべくそのままに、サステイン部分を鋭くカットするような処理になっていて、タイトなドラムに仕上がっています。
裏技的に
日本で活躍するフランス人エンジニアのグレゴリ・ジェルメンさんがお気に入りのWavesプラグインを語る「My Favorite Waves」で話されていた、Smack Attackの裏技的活用法。
近年はラウドネスを意識したミックスが大事と言われていますが、欲しいパンチ感や音圧を(コンプやリミッターなどで)稼ぐと比較的簡単に基準を超えてしまうというのは、ミックスされている多くの方が経験済みではないでしょうか。
グレゴリ・ジェルメンさんによれば「ドラムのバスに一度リミッターを挟んでレベルを抑えてからSmack Attackでトランジェントだけをわずかに強調してあげる」ことで、ラウドネスメーターをほとんど振れさせずに存在感を出すことができる、とのこと。トランジェントコントロールは、今後のミックスに必須の科目といってもいいかもしれませんね。
ソフト音源で作ったトラックだったり、友人などから届いたテイクが自分の意図と違う奥行きであったときなど、トランジェントをコントロールしたいシーンは今の音楽制作にたくさんあることでしょう。そんなとき、Smack Attackは「最短のステップで、最高の効果」を出してくれるツールとなってくれるでしょう。
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