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ラップトップでもPro Tools HDXシステムに並ぶパワーと拡張性を。

ラップトップでもPro Tools HDXシステムに並ぶパワーと拡張性を。

テクノロジーの進化にともない現代のプロダクションのスピードは速くなる一方です。そのスピードに対応するために、様々な環境で作業できることがとても重要になってきました。今の時代は、スピードと環境の両面において対応力のあるクリエイターが強いと言えます。

制作のスタンスも変わりつつあり、大きなプロジェクトから小さなプロジェクトまで様々な規模のセッションを重ねることが多くなり、制作のモバイルセットを組むことが対応力のアップに繋がります。

これまではモバイルの制作機材は用意していなかったのですが、スタジオを離れた場所でも作業できるようにMacBook Proを購入しました。そして、その名前からして相性の良さそうなWavesの「 SoundGrid Mobile Server」をテストする機会を得ました。

2020.01.01

Mobile Serverについて

2019年3月に発売されたMobile Serverは、WavesのSoundGridサバー製品の中で2番目に新しい製品です。Mobile Serverを使うには、普通のCAT6またはCAT5eのLANケーブル、 Apple純正のEthernet-Thunderboltアダプターが必要です。SoundGrid Studioという無償のソフトウェアから接続されている機器の設定を行いますが、ネットワークワーク・ポートを指定して「Auto Config」ボタンを押すだけでMobile Serverが認識されるのでとても簡単です。

SG_Inventory

Waves SoundGrid Mobile Server Waves SoundGrid Mobile Server - SoundGridフォーマットに対応するプラグインを動かすことができる一辺が14cm、高さ3.8cmのコンパクトなモバイルDSPユニット。CPUはIntel Skylake Core™ i5を内蔵、例えばCLA-76 Compressorなら300個以上同時にリアルタイム処理できる十分なパワーを備えている。

Mobile Serverは小さくて場所を取らず、サイズや重さも持ち運びに最適です。全くファンノイズが出ないので、存在を忘れるぐらいに静かです。今回はオーディオI/OにDiGiGrid Dを使いましたが、SoundGrid Connectの機能を利用して、スピーカーのない環境、つまりMacBook Proの内蔵スピーカーやヘッドフォンでもチェックしてみました。


モバイル・セットアップの目標

MacBook Proを購入した目的はPro Toolsセッションの仕込みや準備作業をどこでもできる環境を作るためでした。ただ一番の悩みとして、MacBook Proのスペックで普段Pro Tools HDXで扱っているような大きいセッションを立ち上げることが可能なのか?トラック数やプラグインの数などが増え、最近ではどんどんCPUのパワーが必要になっており、ノートパソコンでも同じ様な作業ができるのかという不安がありました。

手始めにメインでミックスをするスタジオのMac ProとMacBook Proの両方で、持っているプラグインのミラーを作り、iLok Cloudなどでライセンスを移動、モバイル環境とメインのミックス・ルームで同じセッションを共有できる設定を作りました。今後は、元々ミックスをしていたセッションをMac Book Proに立ち上げて、データの書き出しや後日のSTEMバウンスにも使いたいと考えています。

今回はいくつかのパターンを試し、まず元々のアナログとプラグインを混ぜた感じのセッションを最初からMacBook ProとMobile Serverで再ミックスしてみました。アナログ機材のエミュレーション、リバーブやエフェクターも全体的にこの環境で再現するためにSoundGrid対応のプラグインを中心に使用しました。

全トラックにStudio Rackを挿し、その中でプラグインを起動させると、プラグイン処理をするCPUを、Mobile Serverにするか、MacBook Proにするか、簡単に切り替えることができます。

Waves Studio Rack - - Mobile Serverなどの外部DSPサーバーでプラグインを動かすときはこのStudio Rackが必要になる。SoundGridサーバーを持っていなくても、Wavesアカウントがあれば誰でも無償でダウンロードが可能。直列に並ぶ8個のプラグイン・スロットを備え、プラグイン・チェインとプラグインの設定をまるごと保存することができる。左上の「PROCESSING」タブでは、プラグイン処理をSoundGridサーバーで行うかコンピューター本体のCPUで行うかを簡単に切り替えることができるので、SoundGridサーバーが無い環境でも、CPUがオーバーロードしない限り、同じセッションを開くことができる。こちらの記事「Waves StudioRackを使いこなす」でも詳しく解説されている。

試しに、Abbey Road VinylというCPU負荷が重めのプラグインを入れてみました。このプラグインをMobile ServerのCPUで動かした場合、この画像のようにPro Toolsの"System Usage”のバーは2%程度ですが、MacBook ProのCPUで動かすとバーの値は25%まで上がります。

Pro Tools

System Usage

Abbey Road VinylほかすべてのプラグインをMobile Serverで処理しているとき

System Usage 2

Mobile Serverを使わずにMacBook ProのCPUだけでプラグインを動かしたとき

このように圧倒的にMacBook ProのCPUが軽くなり、Waves以外のプラグインやPro Toolsの動作にCPUを使えるのですごく助かります。もしMobile Serverがなければ、リズムのトラックだけでもう30%ぐらいCPUを使っていたので、他のトラックに色々プラグインを挿していくと、おそらくすぐにCPUを使い切りProToolsが止まってしまうでしょう!


ワークフロー

ここまではスタジオとモバイル環境を行ったり来たりするワークフローを想定していましたが、 ここからは、まだMIXしてないセッションをスムーズにメインのスタジオから、外の小さなスタジオ、自宅、そしてまたメインのスタジオに戻りファイナルミックスを仕上げるという流れを考えてみましょう。

必要最低限のトラックを作って、レコーディングで組んでいたボーカルのラフのバランスを残します。今回の仕込み作業ではPro Toolsのプラグインスロットを使うのではく、Studio Rack内のWavesプラグインで作り込んでいます。そうすることで、使用しているパワーを基本的にすべてMobile Serverに割り当てることができます。

Waves以外のプラグインが必要なら、微調整程度でPro Toolsのプラグイン・スロットを使います。そのセッションをメインのスタジオに戻し、大きなサブウーファを使ったり、大きめの音で聞いたり、ローエンドの微調整をしていきます。

Studio Rackでプラグインを組んでおけば、仕込みをやっている最中に良いアイデアが浮かんだとき、他の曲でそのチェインを使うことも簡単にできますね。StudioRackで組んだプラグインのチェインを保存して、使いまわすことも可能なので、プロデューサーやアレンジャーが好きなサウンドのプロフィルをどんどん作り込むのにも向いています。

スタジオのProTools HDXシステムのように、Mobile Serverのない環境でもWavesアカウントがあれば無料で使えるStudio Rackはかなり便利です。僕が一番効率的だと思う使い方は、リバーブ、ディレイの後の処理です。EQ、コンプ、ディストーションなどを挿すことができるので、Pro Toolsのプラグイン・スロットをセーブすることもできるし、どんどんカスタマイズして、オリジナリティーのあるサウンドを作ることができます。


クリエイティブな使い方

最近海外のMIXで流行っている技術で、Studio Rackならすごくやりやすくなると思ったことがあります。すごくファットなサウンドを目指すなら、ひとつのプラグインだけで作るのはとても難しいです。アナログのような深みのある音をプラグインだけで作るにはプラグインを重ねるて使うことがキーポイントです。

アナログ機器に通すだけでいい感じの音が出る、キャラクターが強くなると感じるのは、アナログ機器に入っている様々な電気回路を通しているからなのですが、プラグインだと入力からの出力までの経路がすごく速いのでピークや出音が強く感じるし、アナログに比べて音が細く感じることがあるかもしれません。ピークが強いのですぐにクリップしたり、音量が上がったりするので、とても細かい設定でプラグインをカスケードで重ねたりします。

海外で最近はやっているミックス・テクニックは山ほどあると思いますが、例えば、昨年ラテン・グラミーを受賞したRosaliaの「Malamute」の例をご紹介しましょう。

この曲のミックスの構造やプラグインの設定などを見せてもらったことがあるのですが、クラップやキックのトラックにNLS Non-Linear Summerをなんと8個も重ねて使っていました。ドライブの設定をすごく小さくしていて、ボリュームを調整して色々な倍音やアナログで生まれそうなファットな感じの音が出ていましたね。

Kick FAT Sound

Pro Tools上で一つのトラックに8個もNLSを入れたら、あたりまえですがPro Toolsのプラグイン・スロットが埋まってしまいます。結局AUXで他のプラグインを加える必要があり、海外のセッションでAUXトラック数が異常に多いのはそれが理由です。Studio RackとSoundGridサーバーのコンビネーションで素晴らしいのが、一個のPro Toolsインサート・スロットでそのサウンドを作ることができることです。

同じ考え方で、リミッター、ハーモニクスなども細かい設定でプラグインを重ねると、もっとクリエティブなミックスができるでしょう。

というスタンスに切り替えれば新たなサウンドの世界観を手に入れることができますね。


結論

全体の印象はとても良く、とにかくホストのパソコンのCPUを使わないことによってProToolsの動作が軽くなりますし、CPUが足りるのかなという心配がなくなります。 今まで以上にクリエティブで変わったアイディア、実験的なサウンド・メイキングを試すことができるので、ミックス・エンジニア、トラックメーカ−、アレンジャーにとっては非常に便利なツールだと思います。

これからネットワーク・ベースのオーディオ・ワークフローは未来のスタンダードになることは間違いないですし、すぐにでも導入するべきだと思います。 また、モバイルでもメインのスタジオでも、家でも同じような軽さとパワーがあれば作業の効率も上がりますし、普段ミックスしている環境のリスニング・ポイントもコロコロ変わることによって耳が鍛えれて、さらなる感覚的なジャッジでミックスできるようになると確信しています。


プロフィール

道脇 直樹

ジェルメン グレゴリ
Gregory Germain

MIXER / Studio Engineer
フランス生まれ、パリ育ち。
日本の文化に憧れて10代の頃から様々な日本の音楽に触れ、2004年に来日。スタジオグリーンバードでキャリアを積み、2011年にDIGZチームに加入。バンド、ポップス、ダンスミュージック、Kpopを中心にエンジニアとして様々なジャンルで活躍している。
CHARA、AAAMYYY、大比良瑞希、Passepied、Mrs Green Apple、Bananalemon、Dean Fujioka

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