ラウドネスメーターを使いこなそう!
オーディオ信号の測定は、トラックメイク、ミキシング、マスタリングにおいて最も重要な部分と言っても過言ではありません。オーディオ・メーターの疑問を解き明かし、どのメーターをいつ、どのように使うべきかを知り、正確に作業できるようにしましょう。
レコーディングチェーンの中で最も重要な部分はどこでしょうか?マイク、それともマイクプリ?DAW?スピーカーやアンプはどうでしょう?
正解は、上記のどれでもありません。実は、メーターが最も重要なのです。
驚きましたか?考えてみてください。正確なレベル測定がなければ、入力トリムの設定ができず、信号にノイズ(さらに酷いときには歪み)が発生する可能性があります。また、システムがいつクリッピングを起こしているかもわかりません。メーターがなければ、ゲインリダクションのプラグインがどれだけ効果的に信号を抑制しているのか。また、マスタリングのために適切に構築されたミックスを見極め、提供することもできないでしょう。
この記事では、オーディオメーターの謎を解き明かし、どのように使用するのがベストなのかを説明します。
2021.05.11
よく使われてきたメーター
アナログ録音の時代には、メーターはオーディオのレベルを表すものとして電気的なレベルを表示していました。一般的に使用されているメーターには3つの基本的なタイプがありました。
- VUメーター
- PPM(ピーク・プログラム・メーター)
- The Dorrough Loudness Meter
元々は、オーディオ・エネルギーで針が動く装置として登場しました。後の発展では、あらかじめ決められたトランジェントレベルが検出されると点灯するピークLEDも搭載され、今日では、Waves VU Meterのような最新のプラグインにて、デジタルでエミュレートされています。
VUメーターの優れた点は、レスポンスが比較的遅く、人間の聴覚に極めて近い反応を示します。言い換えれば、VUメーターは、音楽の再生に伴って発生するレベルの変化をリアルに表現してくれます。しかし、VUメーターは相対的なレベルしか表示しないため、基準レベルを設定する必要があります。DAW で VU メーター(または VU メーター・プラグイン)を使用する場合、推奨されるリファレンスは -18 dBFS(「デシベル・フルスケール」の略)です。詳細については、ゲイン・ステージングの記事をご覧ください。
VUメーターのやや高度なバージョンであるPPMは、瞬時の音量の動きを表示するのに優れていますが、基準レベルを持たないため、正確なラウドネス・モニタリングを提供することはできません。さらに、アタックタイムとリリースタイムがほぼ等しいVUメーターとは対照的に、PPMメーターのリリースタイムは非常に遅く、場合によっては1.5秒以上かけて20dBに戻ることもあります!このため、PPMメーターはラウドネス・モニタリングを正確に行うことができません。そのため、針が戻っている最中に発生した変化を表示することができず、連続的な信号レベルの変化も表示することもできません。PPMディスプレイは通常、いくつかの "棒グラフ "ライトやLEDセグメントで構成されていますが、時には移動針(VUメーターで使用されているものに似ています)が採用されています。
1980 年代にエンジニアの Mike Dorrough 氏によって開発された Dorrough ラウドネスメーターは、平均レベルとピークレベルの両方を 1 つの画面に表示し、非常に速い応答時間(「バリスティック」)で、入力された過渡現象を正確に反映し、時間経過に伴うオーディオパワーを高い信頼性で読み取ります。ドローメーターは、プログラム全体で均等に知覚されるラウドネスを確立する必要がある場合、マスタリングにおいて特に有用です。Waves Dorroughは、このタイプのメーターのデジタルエミュレーションを提供します。
LUFS(Loudness Units Full Scale )
現代のデジタル技術は、従来のメーターと組み合わせて(またはその代わりに)使用できる代替的なタイプのメータリングを可能にしています。例えば、人間の耳は異なる周波数での音に対する感度が変わります。(例えば、中域周波数の音量変化を低域と高域よりも鋭く知覚します。)そして、旧式のレベルメーターは周波数レンジで音量を区別できません。これを考慮して、LUFS("Loudness Units Full Scale "の略語)と呼ばれる全く新しい測定スケールが作成され、平均レベルやピークではなく、実際にどのようにラウドネスを知覚するかを計算にいれています。
VUやPPMメーター(それぞれdBVUとdBFS、"FS "は "Full Scale "の略)とラウドネスメーター(LUFS)で使用される測定単位には大きな違いがあることを認識しておくことが重要です。さらに、Waves WLM Plus Loudness Meterのようなラウドネスメーターは、抽象的な針の揺れやセグメントライトの代わりに、実際の数値表示を提供します。
LUFSスケールは、チャンネル間や、番組からCMへ行く際に統一された音量になるよう法律によって基準を義務付けられている放送テレビ業界で広く使用されています。 また、ビデオゲームやオンライン配信システムでも使用されています。ゲーム会社によっては、音楽トラックのミックスが定義されたLUFSレベル内に収まるように指定することで、他のゲームサウンドとのバランスが取れるようにしています。
タイムスケールを知る
現代のラウドネス測定におけるもう一つの重要なコンセプトは、測定のタイムスケールです。音響心理学の法則では、私たちは音の一瞬のピークではなく、一定時間の平均値からラウドネスを知覚するとされています。言い換えれば、(たとえ高いレベルであっても)非常に短い過渡的なバーストはラウドネスの知覚にあまり影響を与えませんが、半秒以上続く同様のバーストは大きな影響を与え、実際に不快感を引き起こす可能性があります。
過去数年の間にいくつかのタイムスケールが提唱され、標準化されてきましたが、その中でも最も一般的なものは以下の通りです。
- Momentary
- Short Term
- Long Term
- True Peak
Momentaryは、最短ラウドネスのタイムスケールとして十分な400msの間の信号を測定します。
Short Termは、1秒から数秒の間のラウドネスを平均化したもので、時間のスライスの間にいくつかの「重なり」があります。
Long Term(Integrated Loudnessと呼ばれることもあります)は、計測したプログラム全体を平均化し、最も有用な値を提供しています。
True Peakは、連続する2つのサンプル間に発生するインターサンプルピーク(従来のメーターでは検出できないピーク)を測定するためのサブサンプル精度を提供します。これは、番組素材を後でラウドネス正規化した場合(デジタル放送システムやオンライン配信サービスでは当然のように行われています)、これらのシステムで使用されているようなロッシー形式に変換しても、理論的にはデジタルクリッピングや歪みが発生する可能性を減らせるため、非常に重要です。
メーターをもっと使いましょう!
最良のアプローチは、用途やレコーディング、ミキシング、マスタリングしている音楽に最適なメーター・タイプ(またはメーター・タイプの組み合わせ)を見つけることです。例えば、ホームスタジオでデモを録音する場合、過負荷を回避し、十分なヘッドルームを確保するためには、シンプルで正確に校正されたVUメーターが必要な場合があります。より正確さが必要な場合、例えばマスタリングや商用リリースの作業をしている場合は、Dorrough StereoやDorrough Surroundをお勧めします。究極のクリップ回避と全体的なラウドネスの正確な測定のために、WLMは、最も要求の厳しいミキシング、マスタリング、放送のセッションでも必要とされるすべてのメータリングツールを提供します。
そして、使用するメーターの種類を1つに絞る必要はありません。様々な場面で最高のものを選んでください。結局のところ、あるタイプのメーターでは信号がある方向に見えても、別のタイプのメーターでは全く違う方向に見えてしまうことはよくあります。例えばタンバリンのような一過性のパーカッシブなサウンドは、通常、反応の遅い VU メーターではわずかな動きしかしませんが、 PPM メーターが飛び跳ねていても比較的静かに聞こえます。
使用するメーターのタイプが決まったら、シグナルチェーンの最後だけでなく、必要と思われる場所にメーターをインサートしてください(例えば、コンプレッサーやリミッターなどのダイナミクスプロセッサーのプラグインの前と後の両方にメーターがあると便利です)。
そして最も重要なことは、レコーディング、ミックス、マスターを行う際に、頻繁にメーターをチェックすることです。これが、正しいゲインのステージングを維持し、オーディオをクラッシュさせないための鍵となります。
いかがだったでしょうか。
ラウドネスメーターを見慣れない方は、一見何を指し示しているのわからないですよね。今回の記事でどのパラメーターが何を計測しており、自分の用途に合わせて適切なメーターを選ぶ知識が着いたと思います。基準であるメーターの知識が着いたところで、早速作品に落とし込んでみましょう。
早速デスクに向かって制作を始めましょう。
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