WAVES Impact ServerとDiGiGrid Dの組み合わせの最強さ
2015年に産声をあげた、コンピュータのイーサネット端子を使用するオーディオIOシステムのDiGiGrid。プラグインデベロッパのWAVESと、世界最大級のコンソールブランドであるDigicoが共同で作ったブランドで、創業時には無骨な見た目のIOを7種リリースするところから始まりました。
2020.01.01
2016年にはより自宅スタジオなどに向けた「デスクトップシリーズ」4製品をリリース。4製品のうち3つは特殊な環境下での製品でもあるため、個人スタジオに向けたオーディオIOとしては1製品 = DiGiGrid Dが主な売れ線の製品であり、リリース以降も順調にユーザーが増えてきているところです。
先日、ちょうど私の友人がDiGiGrid Dを購入しました。友人はギタリストですが、ミュージシャンを生業としている人ではなく、一般企業の会社員です。しかしギターの腕前は素晴らしく、彼に決意と熱意があるならプロミュージシャンとしても大成するのではないか、と思うほど素晴らしいセンスを持っています。購入を決意したのは、DTM Station Plusの放送を見たときだそうです。
彼がDiGiGrid Dに決めた理由はシンプル。それまでコンピュータを買いかえるたびに、オーディオIOも買い替えなくてはいけないことに嫌気がさしたから、だそう。この辺は私も同様の経験があります。これまで一通りの接続方式(PCI、PCカード、USB、FireWire、Thunderbolt等々…)のIOを買い換えています。単に私や友人の買い物下手の側面もあるかもしれませんが.....。また友人はWin/Macをその時必要な環境に応じて買い分けています。
DiGiGridのIOが採用しているイーサネット端子はどうでしょう。コンピュータの主な目的(ネットワークへの接続)ということを考えれば、この規格が廃止されるということはなかなか考えにくく、事実最新のMacBook Pro(USB-Cしか搭載されていない)でも、1つの変換を用いてイーサネット端子を使用することができます(ちなみに、USB-CからFireWireへの変換はもはやApple純正では用意されていません)。
実際のコネクタとして搭載されていなくとも、イーサネットポートはこの先も長いあいだ廃止されることは考えにくいということです。
友人はDiGiGrid Dのアナログ部分の音質もお気に入りで、マイクを接続したとき、リズムボックスやシンセサイザーを接続したとき、ハードウェアのアンプシミュレータ経由でギターを接続したとき。どれもお気に入りだそうです。彼の言葉をそのまま借りれば「最新のテクノロジーが詰まったボックスなのに、今まで使ってきたIOのどれよりもアナログ部分の質感がクリアで図太くて好きだなぁ」だそう。
ともあれDiGiGrid Dは友人のもとでほぼ毎日活躍しており、私自身もおすすめした甲斐があったなと喜んでいるところです。
友人からの新たな悩み
友人がDiGiGrid Dを購入して半年。友人はWAVESのプラグインも愛用しているのですが、最新プラグインの幾つかを使ったときに、コンピュータのパワーが追いつかなくなるとのこと。友人には1つ大きなポリシーがあって、バッファサイズの設定をしてPCの負荷を抑えるということを「したくない」んだそうです。タイミングやレイテンシーに非常に敏感な友人なので、彼の思いは良くわかります。彼はいつもバッファサイズを最小のままで設定しています。私がいつも社外デモなどで使用している2012年頃のマシンでもこの設定でほとんどの作業は問題なく行えますが、WAVESに限らずいくつかの最新プラグインなどを使うときには厳しくなることもありました。
そこで友人が導入したもの
当初友人は「DiGiGrid Dではなく、DiGiGrid IOS(プラグインサーバー機能つき、8イン8アウトのアナログ入出力ほか、豊富なIOを揃えたもの)にすべきだっただろうか。でも自分の環境ではアナログの8イン8アウトは使わないし…」と話します。でも、WAVESプラグインや先日SoundGridに対応したばかりのFlux::社製プラグイン、Plugin-Allianceの製品は魅力的です。
そこで私が彼に紹介したものは、SoundGrid対応のプラグインを処理してくれるサーバー、WAVES Impact Serverです。DiGiGridのIOSと同じ処理能力をもつこのサーバーを、友人は追加することにしました。これらを同時に使用すると「2イン4アウトのIOを持ったIOS(のような感じ)」という構成になります。Impact ServerもIOSも、いずれもWAVESの人気プラグイン、SSL-4000 G-Channelなら、96kHzのセッションでも170個以上もインサートできるパワーを持ちます。
友人は大満足のようです。好きなプラグインがマシンパワーに左右されず使え、かつバッファサイズは最低に設定してあるため、ダイレクトモニタリングなどの設定も必要ありません。時にはお気に入りのプラグインをレコーディング時から掛けて使用することもあるようです。
Impact ServerやIOSが「優秀だなぁ」と思わせるポイント
例えば友人の場合、彼の趣向もあって全トラックの一番最初のスロットにはWAVESのNLSを使用するそうです。
NLSは著名な(実際に著名なレコーディングでもそのものが使用された)アナログコンソール3種を、1chから32chまですべて解析。インプットとインプットゲインがサウンドに与える暖かさ、歪み、コンソールならではの一体感などを与えてくれるプラグイン。非常にクレイジーな年月をかけて開発されたこのプラグインは、プラグインサーバーを用いなくてもいいほど、非常に軽く動作するようにプログラムされています。32トラック全部にインサートしても、私の2012年製MacBook Proですら微量な負荷にしかなりません。
友人の場合、このプラグインはサーバーに任せることなく、コンピュータ本体のCPUで処理をさせています。
代わりに、先日リリースされたばかりのWAVES Abbey Road Plateを使うときには、サーバーで処理をさせるそう。アビー・ロード・スタジオ公認であり、かつ監修までされたこのプラグイン。非常に美しくて音楽的なリバーブを得意としていますが、名器の再現からか負荷は高め。よってサーバー処理にはもってこいのプラグインともいえます。
このように、必要ならプラグイン単位でCPU処理か、サーバー処理かのセレクトができることが優秀ポイントの1つです。
それって、マシンだけ持ち出した場合に面倒なんじゃない?
外部のDSPやサーバーにプラグイン処理をさせる場合につきまとう問題。「サーバーがない場合はどうなるの?」
サーバーを持たずに外のスタジオに出かけた場合、同じプラグインバンドルを持っている友人にセッションファイルごと送った場合、あるいは何らかの事情で、突如サーバーが故障してしまった場合などまでを考えてみましょう。
こんな書き出しをするくらいなので、当然ながらすでに対策は施されています。 Impact ServerやIOSを使って処理をさせているプラグインたち(WAVES、Flux::、Plugin-Allianceほか)は、DAWの起動時にサーバーが見つからない場合は、自動的にすべてをコンピュータ本体(CPU)の処理に切り替えます。特に設定は不要です。ですから
・「やべっ、サーバー忘れてきた(IOSの場合は起こりえませんが)」とか
・「なんだよ〜、スタジオきたらサーバー動かないとか勘弁してよ〜」
といった事故はありません。
もしもコンピュータ本体だけで動かすのが難しいセッションの場合は、お出かけ先の現地でトラックフリーズすることもできます。サーバーがないから現地で何もできない、といったことはありません。
こちらがサーバーで処理されていたときの画像で、
下がサーバーが見つからず、自動的にコンピュータ本体の処理に変わった図。
ある日の友人の記録
その日、私の友人はDiGiGrid DとImpact Serverを持って外のスタジオでギターとボーカルのレコーディングがあったそうです。前日までにラップトップマシン本体、iLok、アダプター、マイクやケーブル、お気に入りのリフレクションフィルタ。そしてDiGiGrid DとImpact Serverを持って出かけることになっていました。スタジオでの万が一に備えて、全トラックをフリーズしたものも用意しています。
ところがスタジオに到着してみると、持ってきたはずのImpact Serverがない。そうです。自宅に忘れたのです(友人はギターをレコーディングしようとしてギターを忘れたこともあるほどなので、このくらいは意外でも何でもありません)。
忘れたときのために全トラックフリーズ済みのセッションでレコーディングを開始しようとしたものの、スタジオで微細なエディットを余儀なくされました。しかしフリーズを解除すれば、通常の外部DSPプラグインの場合は起動できません。友人はこのトラブルが発生したとき、上で書いたような「自動的にCPU処理に切り替わる」ことを知らなかったため、すがるように私に電話がきました。
「これ、フリーズ解除したらどうなるの….」と。
私は(かなり格好つけた声で)「そのままフリーズ解除していい。問題ない」と伝え、意を決した友人がフリーズ解除を押したところまでを見届けて電話を切りました。
フリーズ解除→ネイティブ環境でエディット→再びフリーズ
こういった現場対応となるような作業もDiGiGrid IOSやSoundGridサーバー(Impact Serverなど)なら問題ありません。この辺が優秀ポイントその2です。
友人はこんなことがあってから、何回かはDiGiGrid IOSへの買い替えを検討しているようですが、あれ以来はもうImpact Serverを持ち出すこともなくなったそうです。いざとなってもスタジオで対応もできるし、忘れ物にビクビクしながら楽しいはずのレコーディングに臨みたくない、と、絶妙にだらしないことも言います。ですが、こういった臨機応変な対応ができる環境を作ったこともSoundGrid対応機の自慢のひとつなので、良かったのかもしれません。
人気記事
コンプレッサーの種類ってたくさんあるけど、どれを使ったらいいの?
今回の記事では、コンプレッサーの種類と、それぞれのコンプレッサーをどのような場面で使用するのかを学んで行きます。VCA、FET、Optical、Variable-Mu、デジタルコンプレッサープラグインなど、様々な種類のコンプ
ミックスで「コンプのかけ過ぎ」を避ける7つのコツ
ミックスする時に、コンプレッションをかけすぎたり不足したりはしていないでしょうか?全てのコンプレッションに目的を持っていますか?かけすぎで躍動感が失われたり、逆にルーズすぎてかかりが弱かったりというこ
リードボーカルのミキシング 12のステップ 後編
前回に引き続き、リードボーカルに対するアプローチをご紹介します。前回の記事では、コンピングや編集で、ボーカルのベースを作っていく作業を中心にご紹介しましたね。今回の記事では、ミックスの中で他の楽器隊な
WAVESがV15へ。メジャーアップデートをリリース
30年以上もの間、WAVESはプラグイン・エフェクトの世界的ディベロッパーとして、音楽制作の現場を支えてきました。この度、WAVESはV15へのメジャーアップデートをリリースいたします。
11のステップでプロのサウンドへ。ドラムのミキシング
コンプレッションやEQの設定、位相トラブルの修正方、さらにトランジェントのコントロールまで、ドラムミックスの"いろは"を学んでいきましょう。 さらに、パラレルコンプレッションやリバーブを使い、深みと奥行
StudioRackがOBS Studio(Windows)に対応
ストリーミング配信・録画ソフトウェアOBS Studio(Windows)にStudioRackが対応し、配信時にWavesプラグインを使用することが可能になりました。これにより配信時にノイズ除去(Clarity)や音量管理(Vocal Rider)
人気製品
Curves Equator
Wavesは30年間にわたりEQを設計してきました。しかし、もっと正確で、もっとパワフルで、もっと効率的で、さらに楽しいEQがあったらどうでしょう?近年、スタジオのテクノロジーとワークフローのほとんどすべての面
Horizon
音楽の創造は1990年代にアナログからデジタルへ、ハードウェアからソフトウェアへ、2000年代にはコンピューターのパワーの上昇によりインザボックスでの制作、ミキシング、マスタリングは一般的なものになりました。
Platinum
モチベーションも高く制作を進め、ミックスも基本のプロセッシングからキャラクターを生かしバランスを取った作業ができた。数曲をトラックダウンして、作品として発表するところまでもう少しという段階。ここまでく
Gold
音楽制作やミックスをより輝かせるために必要なものとは何でしょう。Power PackやSilverがあれば、作業の基礎は十分にカバーできます。しかし、それぞれのトラックの個性を引き出し、より有機的にバランスよく文字通
Clarity Vx
Clarity Vxは、ボーカルをバックグラウンドノイズから取り除き、あらゆるミックス、プロダクション、ポッドキャスト、ビデオ用にサウンドを整える最高品質かつ最速の方法です。Waves Neural Networks®が搭載されてい
Vocal Rider
ボーカルトラックのレベルをリアルタイムに調整する「手コンプ」を自動で行うプラグイン Vocal Riderは、ボーカル・レベル・オートメーションに革命を起こします。用途も、使い方も、他のWavesプラグイン同様、非常
CLA Vocals
Waves Artist Signature Seriesは、世界のトッププロデューサー、エンジニアとのコラボレーションにより生まれた目的別プロセッサーシリーズです。全てのSignatureシリーズプラグインは、アーティストの個性的なサウ
eMotion LV1 Classic
eMotion LV1 Classicは業界で実証済みのWaves LV1 ミキサーのエンジンのクオリティーを受け継ぎ、その優位性を世界中のライブサウンド・エンジニアに好まれるコンソールの形状とワークフローで提供します。