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ソフトウェア音源をリアルなサウンドにするための5つのヒント
ソフトウェア音源でアクセスできるサウンドの種類は膨大です。ベロシティオートメーション、アーティキュレーション、モジュレーション、リアンプ、FXを使用して、MIDIサウンドを「リアル」に仕上げる方法を学びます。
2020.01.01
ソフトウェア音源でアクセスできるサウンドの種類は膨大です。ベロシティオートメーション、アーティキュレーション、モジュレーション、リアンプ、FXを使用して、MIDIサウンドを「リアル」に仕上げる方法を学びます。
ソフトウェア音源プラグインを使用すれば、ドラム、ピアノ、ベース、ギター、木管楽器、金管楽器セクションの他、想像できるほぼすべての楽器を楽曲に追加できます。高品質のMIDIインストゥルメントは、使いやすいユーザーインターフェイスを介し、細かいパラメーターをコントロールできます。ソフトウェア音源は効率的、実用的で素晴らしいサウンドですが、アコースティックインストゥルメントのダイナミックなパフォーマンスと比べると、ミックスでの「躍動感」と「リアリティ」が欠けてしまうことがあります。この記事では、ソフトウェア音源の音をもう少しリアルにするための5つのヒントを紹介します。
ソフトウェア音源を使えば、所有していない楽器を使えることに加え、不十分なスタジオ録音を十分に補うことができ、時間とお金の節約につながります。実際の録音をソフトウェア音源に置き換えることにクライアントがOKするかどうかは、あなたが制作する代替物のクオリティ次第です。完璧さとヒューマンエラーのバランスをとる必要があります。デフォルトでは、多くのソフトウェア音源は非常に完璧に聞こえ、たいていの場合そのままでは人間的な要素に欠けてしまいます。しかし不完全性や偶然性をわざと加えることで、この問題を克服できます。
1.ベロシティをオートメーション化する
ベロシティとは、ドラムヘッドが叩かれたり、弦が弾かれたり、鍵盤が弾かれたりする速度を指します。これらのアクションを実行するために使用するベロシティが高いほど、サウンドは太くなります。これは単に音が大きくなるという意味ではなく、サウンドのキャラクターも変わります。
WavesのバーチャルピアノであるGrand Rhapsodyは、ロンドンのMetropolis StudiosのFazioli F228をサンプリングしており、ベロシティ・センシティビティ・カーブのノブをコントロールできます。このノブを最小値に設定して中くらいのベロシティ値を入力するとソフトなトーンが生成され、ノブを上げるとよりアグレッシブなトーンになります。
このバーチャルピアノは、インターフェイス内で設定したパラメーターに基づいて、膨大なサウンドライブラリからサンプルを呼び出します。入力されたベロシティによって、全く異なるサンプルが再生されます。例えば、低いベロシティでは、ピアノの弦の音が静かになり、ペダルのノイズがよりはっきりします。
以下のオーディオサンプルには、Grand Rhapsodyを使用して作成したスタッカートのコード進行が含まれています。前半はベロシティに違いをつけていませんが、後半ではつけています。音楽的にみて、前半はうまくいっていないように見えます。ベロシティ値以外は何も変更していませんが、後半は完全に使えるサウンドになっています。
マルチサンプリングされたソフトウェア音源では、キーボードでダイナミクスをつけて演奏する、もしくはDAW内の個々のMIDIノートのベロシティレベルを調整することで、ベロシティの利点を自分の曲に生かせます。
もしくは、Grand RhapsodyのベロシティカーブをMIDIコントローラーのノブまたはスライダーにマッピングして、ベロシティーに変化をつけることもできます。これは、録音後にMIDIの演奏を改善するのに良い方法です。私は地球上で最も偉大なピアニストではないので、ベロシティの変化に個別に取り組むことで、作品に信じられないほどの躍動感を吹き込むことができるのです。
Abletonを使用している場合、ベロシティ値をランダム化できるベロシティと呼ばれるMIDIエフェクトがあります。 これをMIDIトラックに加えることで、生のピアノ録音にあるような、微妙にランダムなベロシティのバリエーションを生成できます。これは、私がマルチサンプリングされたインストゥルメントを使用する際に使用する定番のトリックです。
テンプレートには、楽器、ドラム、ボーカルのサブグループも含まれていますので、これらの重要な要素すべてを隣接するフェーダーでグループ化することができ、バランスの調整が容易になります。
Grand Rhapsody、Bass Fingers(Wavesのバーチャルベースギター)といくつかのドラムを使って、シンプルなアレンジでベロシティが生み出す違いを聞いてみましょう。次のオーディオサンプルの前半はベロシティを適切に使用していませんが、後半は使用しています。ベロシティの変化により、後半はよりグルーヴィーになっていることがわかります。
2.アーティキュレーションを変える
アーティキュレーションとは、音符がどのように演奏されるかを指します。より具体的には、音のアタック、ディケイ、サステインおよびリリース(ADSR)、およびその音色、ダイナミクス、ピッチです。楽譜から曲を演奏するミュージシャンには、アレンジメントをどうアーティキュレートするかについてある程度の自由があり、曲の解釈に沿う形で行われます。
Bass Fingersには、多くのアーティキュレーション・コントロールがあります。このソフトウェア音源では、Bass Fingersのハンドポジションをフレットボード上で上下することで、熟練のベーシストが演奏するのと同じ方法で個々のノートとコードを演奏できます。これにより、動きの無いベーストラックに様々なバリエーションを追加し、躍動感を生むことができます。
キースイッチは見落としやすい機能ですが、Bass Fingersのサウンドをリアルにするために不可欠です。この機能を使って、様々なアーティキュレーションとサンプルにすばやくアクセスできます。
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アーティキュレーションはフレットポジションを変更し、ノートを様々に変化させ、レガートのタイプに影響を与えます。適切なレガートタイプを選択すれば、ハンマーオンとプルオフを行ったり、それらを完全に回避することもできます。
サンプルを使用すると、デッドノート、ハンドミュート、スライド、FXなどのユニークな録音を再生できます。 Bass Fingersのキースイッチエディターを使用して、使用したいアーティキュレーションとサンプルをキーボードの鍵盤に設定することができます。これにより、ライブパフォーマンス中にこれらの機能を使用できるようになります。
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私にとって、最初にベースラインを書く時にキースイッチは少し圧倒的に感じられます。ピアノを弾いて育ったのでなければ、おそらくあなたも同じ状況でしょう。このパワフルな機能を無視するのではなく、大まかなベースラインのアイデアを書いた後、またキースイッチに戻って来るようにしています。
異なるアーティキュレーションを使用できるセグメントを曲の中で見つけて下さい。これは、イントロ、バース、コーラス、ブリッジでベースラインのアーティキュレーションを変更する、という位シンプルでも構いません。異なるアーティキュレーションを使いすぎる必要はありません。小さなアーティキュレーションの変化でも、リスナーの興味を保つには十分です。
ハーモニック・ストラム、フォーフィンガー・ストラム、ハンドスクラッチ、フレットノイズやフレット移動音などのFXをベースラインに加えます。これらはすべて、Bass Fingersからアクセスできるサウンドで、ベースラインがライブで録音されたような錯覚を作り出します。この絶妙さと不完全さが、プログラムされたように聞こえるソフトウェア音源とリアルに聞こえるソフトウェア音源との違いです。
3.モジュレーションを使用して、合成されたサウンドをよりオーガニックにする
モジュレーションを使用すると、サウンドの様々な要素に揺らめくようなエフェクトを加えられ、多くの場合、ソフトウェア音源のパッチに命を吹き込むことができます。モジュレーションは、パラメーターの中心値を設定し、中心値からの上下の値の動きを自動化することで適用されます。設定がどれだけモジュレーションを行うかは、通常、デプスノブを使用してコントロールされます。
WavesのElectric 88 Pianoは、トレモロ(ボリュームのモジュレーション)、パンポジション、フェイザー、コーラスのデプスをコントロールします。揺らぎのある、常に変化するようなパッドサウンドはこのピアノが得意とするところです。
映画の作曲家は多くの場合、スコアでモジュレーションを多用しています。 以下で聞くことのできる「It Follows」のサウンドトラックの「Jay」という曲は、とてもシンプルですが、持続音に加えられたトレモロで、ムード作りに大きく寄与する雰囲気を作り出しています。
使用しているソフトウェア音源に専用のモジュレーションセクションがない場合は、MondoModなどのモジュレーションプラグインを使用して動きを作ることができます。 MondoModを使用すると、音量のモジュレーション(トレモロ)、周波数のモジュレーション(ビブラート)、パンモジュレーション、およびコーラスエフェクトをどんな音源にも適用できます。このプラグインは、あらゆるソフトウェア音源に使用できる重要なモジュレーションツールです。
シンプルなアレンジメントをより興味深いものにし、合成されたサウンドをよりオーガニックにするために、モジュレーションを少しだけ使って実験してみてください。エレクトリックピアノパッチにトレモロを追加してビンテージスーツケースピアノのようなサウンドにしたり、シンセサイザーにコーラスをかけてオーガニックな動きを与えてみましょう。選択肢は無限にあります。これらの微調整が、時として良いサウンドの作品と素晴らしいサウンドとの違いとなることがあるのです。
4.ソフトウェア音源をリアンプする
サウンドをリアンプするには、アンプから音を再生し、マイクを使用してDAWに録音し直す必要があります。通常はギ
アンプから発生した音が、アンプの置かれている部屋と相互に作用し、部屋の特性の一部が引き継がれてマイクによって拾われます。アンプとマイクの品質もある程度サウンドに影響します。こういった現実世界での物理的な音波の相互作用によって、ソフトウェア音源に欠けているリアルな成分が生まれます。また、音が「録音された」という感覚も生まれます。
Shure SM57のようなダイナミックマイクは、こうした用途に適した手頃な価格の選択肢になります。アンプによって生まれる高い音圧レベルは、このダイナミックマイクが過剰なノイズのないクリーンな信号を生成するのに十分です。
マイクをアンプの前に配置する場合、オンアクシス、オフアクシスなど様々な配置を試すこともできますが、最適な距離と角度は耳を使って簡単に見つけることができます。ヘッドフォンをして、アンプの周りでマイクを動かしてマイクが拾う音を聴いてみましょう。
本物のアンプがない場合でも、GTR3に収録されているGTR3 Ampsを使用すれば大丈夫です。アンプを持っている場合でも、アンプのトーンの選択肢を増やすことができます。スタジオモニターから出力されるシグナルをこれらのアンプに通し、生成されたサウンドをDAWに録音し直します。
倉庫、体育館、森林など、面白い場所でソフトウェア音源をリアンプしてみて下さい。あなたがどういう場所にいるかがマイクが拾う音に大きな影響を与えるので、クリエイティブに色々試してみて下さい。
5. 空間系FXを使用して錯覚を完成させる
ディレイとリバーブは、私がすべての曲で使っている基本的な空間系FXです。これらのFXはどちらも、ソフトウェア音源が存在している環境を認識するのに役立ちます。これらを使用して、ソフトウェア音源に最後の仕上げを施し、ソフトウェア音源が本物であるという錯覚を強固なものにできます。
空間系FXは、ライブ録音された楽器とソフトウェア音源をまとめるために使用すると特に効果的です。空間が共有されている感覚を作れれば、使用しているバーチャルピアノがライブで録音したドラム、ギター、ベースと同じくらいリアルであると信じるのは簡単です。カモメの群れの中でアヒルを見つけるのは、アヒルだけがいる場所でアヒルを見つけるよりはるかに難しいのです。
トラックレベルでディレイとリバーブを使用する代わりに、インストゥルメント・バスまたはすべての主要なインストゥルメントがシグナルを送っているAuxトラックでこれらのFXを使ってみて下さい。本物の楽器とソフトウェア音源が混在しているバスにコンプレッサーとサチュレーションを追加するだけでも、それらの音をまとめるのに役立ちます。
H-Delayのようなディレイを単独で使用すれば、特にディレイシグナルにフィルターをかけた場合は楽器を押さえ込むことなく空間感覚を作り出すことができます。これにより、ミックスのZ軸上で、ドライシグナルの後方にウェットシグナルが追いやられます。ミックスでインストゥルメントグループを目立たせ存在感をキープしたい場合は、ディレイを使ってみて下さい。
Reverbプラグインを使用すると、楽器がその中で鳴っていると認識される部屋の物理的特性をかなりコントロールできます。ヒップホップのミックスでAbbey Road Chambersなどのチャンバーリバーブを使用する場合でも、ポップスのミックスでAbbey Road Platesのようなプレートリバーブを使用する場合でも、元々の楽器のクオリティを損ねないようにしてください。こうした場合、スペースが共有されているという錯覚を作り出すのに必要なのはわずかなリバーブだけです。
結論
ここで説明したいくつかのトリックを使用すれば、最も訓練された耳を持つ人でさえもソフトウェア音源を本物と思ってしまうほど、ソフトウェア音源の品質は向上しています。ソフトウェア音源のプリセットを使用して最初のアイデアを引き出し、パラメーターを一つ一つ満足のいく結果が得られるまで調整してみましょう。
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