DAWの「ゲイン・ステージング」とは? 音量管理で、より良いミックスに
透明感とパンチを兼ね備えたミックスを実現するために必要なものは、ミックステクニックやエフェクトだけではありません。「良いミックス」とは、トラックとミックスの正しいレベルを設定することから始まります。今回、適切なゲイン・ステージングを実現するためのヒントをご紹介します。
2021.05.11
DAWでのゲイン・ステージング
基本的でありながら、レコーディングやミックスのクオリティに多大な影響を与える重要なオーディオの概念である「ゲイン・ステージング」。
信号を送る各段階(つまり「ステージ」)で最適なレベル(つまり、可能な限り最良な「ゲイン」)を設定するプロセスのことです。
昔のアナログミックスでは、フェーダーやノブを使って電圧を調整していました。例えば、テープマシンのトラックに信号を送る場合、チャンネルとバスのフェーダーを使って、できるだけホットなレベルを録音し、歪みを抑えていましたが、これはテープヒス対策に必要でした。同様に、コンプレッサーに信号を送る場合、入力ノブを調整して適切な量のコンプレッションを行い、出力(メイクアップゲイン)ノブで音量を元に戻していました。
もちろん、デジタルの世界では、テープヒスを全く気にする必要はありません。
とはいえ、テープヒスを気にしなくてもいいからと、あまりにも低いレベルで、録音したりバスやプロセッサーのプラグインに信号を送ったりすれば、使用可能なデジタル「ワード」(24 ビットシステムで いう、24個 の 1 と 0 で表される情報)の長さを十分に活用することができません。「ワード」の先頭にある使われていない「ビット」はゼロで埋め尽くされ、その信号がチェーンの最後にアナログに変換されたとき(つまり、スピーカーに届く直前)、明瞭さとパンチがはっきりとしない「弱々しいサウンド」になってしまうのです。
音量が小さすぎたときの弊害はデジタルワードを全て活用することができないということです。その逆の音量を大きく扱うことはどうでしょう。デジタル録音の際に非常に重要なポイントです。デジタルシステムにあまりにも多くのオーディオを積み上げると、厄介な歪みを発生させてしまうからです。(これはテープヒス等とは全く性質が異なります)。
言い換えれば、デジタル録音の際に気をつけなければならないのは、十分な「ヘッドルーム」を確保することです。
ヘッドルームって何?
技術的な意味で、ヘッドルームとは、「システムがオーバーロードする前に利用可能なゲインの量」のことです。この難しい言葉を文字通りの意味(ヘッドとルーム)で、理解する良い方法があります。
あなたが高さ2メートルの天井の部屋で椅子に座っていて、壁の上部に取り付けられたスピーカーから音楽が流れていると想像してみてください。身長が180cmだった場合、立ち上がったときに頭のてっぺんが天井の下にぴったりと収まります。耳がスピーカーの位置とちょうど一緒になり、音楽の微妙な部分まで心地よく鑑賞することができます。
これは、レベルが低すぎる場合の作業に似ています。この部屋では身長が高いほど音楽が聞き取りやすくなるのです。
しかし、あなたの身長が2m10cmだったらどうでしょうか?立っているときは音楽はよく聞こえるかもしれませんが、天井に頭をぶつけてしまいます。頭をぶつけた瞬間、びっくりしてしまい音楽を聞き取ることができません。これはデジタルシステムに深刻な負荷をかけたときに発生する大音量の「バーストノイズ」に相当します。
これがヘッドルームです。天井の低い部屋に「あなた」を収めることができる量が限られているのと同じように、デジタルシステムに収めることができるオーディオの量は限られています。ゼロからクリッピングが発生するまでの間だけです。信号がクリップすると、波形のピークは突然カットされ、歪みとしての音を引き起こします。やるべきことは、シグナルを適切な音量に設定することなのです。
では基本的なゲインのステージングに、どのようなメーターを使えばいいのでしょうか?
DAWのdBFSメーターは何を表示していて、何を表示していないのか?
どの DAW や多数のソフトウェアでコントロール(通常はノブやフェーダー)が用意されており、レコーディングやミキシングの各段階でオーディオ信号の入力や出力のゲインを調整することができます。また、シグナル処理プラグインの入出力時の音量のコントロールも同様です。正しく設定されているかどうかを確認するには、プラグインをバイパスのON/OFFで確認できます。そうすると全体的な音量は変化しないはずですが、変化している場合は、入力や出力の音量を変更する必要があることを示しています。
問題は、メーター上のレベル(より正確には、レベルの表現)を「見る」ことができない限り、最適な値が何であるかを知る本当の方法がないということです。DAW のすべてのチャンネルとバスには、そのようなメーターが用意されていますが、ほとんどの場合、"フルスケールピークメーター "として知られている種類のものになります。これらのメーターは、dBFS(「デシベル・フルスケール」の略)と呼ばれる単位で測定された、信号の中で最も高いピークを1サンプルの精度で表示します。
0 dBFS 以下は安全ですが、それを超えるとクリッピングの原因となります。ゼロより上の値が高いほど、歪みが大きくなります。
VUメーターが示すもの
フルスケール・ピーク・メーターの魅力である反応の速さや、音楽の中で最も大きな音の瞬間に焦点を当てた特性が、必ずしも必要な情報をすべて提供してくれるわけではないからです。もっと実用的なものは、耳が聞こえた通りに反応するメーターです。この実用的なメーターは非常に長い間、1930 年代から存在していました。 VU メーター(VU は「ボリュームユニット」の略)と呼ばれ、アナログミキシングコンソールやシグナルプロセッサには長い間組み込まれていた歴史があります。
今日では、Waves VU MeterプラグインなどのデジタルバージョンがDAWで利用されています。
フルスケールのピークメーターとは異なり、VUメーターは設計上、反応が遅いです。人間の聴覚は、ピークレベル・メーターというよりはVUメーターのような挙動をしてます。VUメーターの比較的遅いレスポンス(通常は約300ミリ秒)は、その間のピークを平均化しているため、音楽の再生に伴って発生するレベルの変化をよりリアルに表現することができます。
VUメーターの読み解き方
もちろん、信号の大きさを知る必要があります。そのため、DAW で使用する場合、VU メーターはデジタルリファレンスレベルが設定されている必要があります。例えば、-18 dBFS(チャンネルやミックスバスから送信されるシグナルのレベル)の信号がVUメーター上で0 dB VUと表示されている場合、18 dBのヘッドルームがあります。
これは、クリッピングまで、どのくらいの余裕があるかを示しています。-18 dBFS は、ほとんどのプロのオーディオエンジニアが推奨するリファレンスレベルです。これより大幅に低く設定すると、0 VU 付近の信号にパンチと明瞭さが欠け、逆に高く設定すると信号が歪んでしまいます。
Waves VUメーターは、希望のヘッドルーム(4 dBから26 dBまで)を指定することができます。さらに、異なるバスのメーターがそれぞれレイテンシーによりズレても、タイミングを合わせて表示されるように反応を遅らせる機能も備えています。
要するに、VU メーターは無限のピークではなく、音量の気になる部分を測定しているのです。こうしてミックスのダイナミクスをよりよく理解することができます。だからといって、フルスケールのメーターを使わなくてもいいということではありません。トラックの中で最もラウドなトランジェントが-8~-10 dBFS を超えないことを確認して使用してください。そして、両タイプのメーターを組み合わせてレコーディングやミキシングを試してみましょう。
ゲインステージングについて。いかがだったでしょうか。
知っていることも多かったとは思いますが、ミックスをする上でのベースになる音量のお話。本日学んだことを早速ミックスに取り入れてみましょう。きっとあなたのミックスはさらに高いステージに登っていることでしょう。
さあ、早速デスクに向かい制作を始めましょう。
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