Waves NLS 〜デジタルにアナログ特有の歪みを〜
デジタルレコーディング環境に物足りないとされる「何か」を補完する製品は、市場に数多く存在する。ビンテージのコンプやEQを通したような質感と効果が得られるもの。テープを通した時の味わいを付加してくれるもの。特定の機器を精密にモデリングしたもの。近年リリースされている製品はいずれも素晴らしく、まさにデジタル環境に足りない「何か」を補ってくれるものばかりだ。
2020.01.01
プラグインエフェクトのトップに君臨し続けるWavesが先日リリースしたNLS(Non Linear Summer)は、そういったカテゴリの中でも大注目の製品だ。
NLSは伝説に残る3台のコンソールを、その所有者でもあるトップエンジニア3名とタッグを組んで開発された、究極のコンソール・プラグイン。ビョークやマドンナを手がけるMark "Spike" Stent氏が所有する SSL 4000G、Pink Floydの名盤「狂気」をレコーディングしたときに使われたMike Hedges氏所有の EMI TG12345 Mk.IV。そしてブライアン・アダムズやペットショップボーイズを手がけるYoad Nevo氏所有のNeveがそれぞれ再現されている。
各コンソールのヘッドアンプによる「歪み」を精密に再現するこのプラグイン。「トラックに歪みを」というキーワードで思い出したのが、ロックオンのリファレンススタジオにて2009年3月に開催された松田直氏によるミキシングセミナーだ。
このセミナーで松田氏は、レコーディングやミックスにおける「歪み」の重要性について何度も触れ、デジタル環境でアナログ特有の歪みを得るために、複数のプラグインやお気に入りのハードウェアを用いて歪みを得ていると語っていた。Waves Mercuryを使用してほとんどのミックスを行っているという松田氏に、リリースされたばかりのNLSをテストしてもらい、印象を聞いてみた。
デジタルの足りない部分を補ってくれる
「最近リリースされているWavesのモデリングシリーズは本当によくできていて、ほとんどのミックスで全チャンネルに使うSSL 4000 Collectionをはじめとして、一通り使っています。NLSもさっそくテストしてみたのですが、非常によくできていますね。CPUやDSPが許すなら、全チャンネルにNLS Channel、ステムミックスのバスにNLS Bussをインサートして使用してみたいと思いました。僕のミックスでは必ずステムミックスを作って作業をするのですが、1つのNLSウインドウから全ステムのボリュームや歪みを管理できるのもいいですね。かつてはミキサーからレコーダー、そしてレコーダーからミキサーに戻る過程で、いくつもの増幅器を通過することで発生する「歪み」があったわけですが、現在のデジタル環境にはそれがない。NLSはそういった足りない部分を補ってくれる最高のツールになりそうです。
Spike
SSL 4000GをモデリングしているSpikeは、SSLらしいスピード感と特有の歪み方が気持ちいいなと感じました。ボーカルなどにはベストマッチだと思いますね。今回の3つの中では一番「モダンな」歪み方ですね。2〜3kHzの一番派手な部分がより明瞭になります。
Mike
EMI TGをモデリングしているMikeは、3つの中で一番「古さ」を感じさせるサウンドですね。Spikeよりももっと低い帯域がドライブされるような印象です。ドラムのオフマイクなどに使ったらいい歪みが産まれそうだなと感じますね。まさにUKの匂いがする、すこし霧掛かったようなマイルドな歪み。ドラムの胴鳴りがぐっと魅力的に響きます。
Nevo
3つの中で個人的にあまりぐっとこなかったのはNeveをモデリングしたNevo。もちろん悪い音/歪み方ではないんですが、他の2つのキャラクターの強さを考えると、あまり癖がないように感じるんですね。もう少し使ってみて、いい使い方を探ってみたいところです。
最近気になっている音楽の多くは、レコーディングやミックスの過程で多くのアンプ(増幅器)を通過した心地よい歪みがあるものばかりになっています。歪みによって産まれる音の魅力は、音楽にとって大切な要素の1つだと思いますね。その要素をデジタル環境で補いたいのであれば、NLSは大きな助けとなると思います。
プロフィール
松田直(マツダタダシ)
1968年生まれ。1990年にスタジオテイクワン入社。退社後フリーとなり、シンクシンクインテグラルに参加。以後Towa Tei, Ripslyme, M-flo、ガグル、Maia Hirasawa等といったアーティストから最近ではチャットモンチー、9mm parabellum bulletなどのロックバンド、「BECK」「告白」などの映画も手がける。
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