
音楽的なノイズ除去を。シンプルに使えるWAVES Restoration術
ひと昔前のレストレーション用ソフトウェアといえば非常に高額でした。かつて私が使っていたレストアのソフトも200万円以上はしたと思います。そんな高価なソフトウェアでしたが、処理能力が低いためリアルタイムの処理も難しく、音質的な問題も大きかったのです。
2020.01.01
音楽制作におけるレストレーション
ひと昔前のレストレーション用ソフトウェアといえば非常に高額でした。かつて私が使っていたレストアのソフトも200万円以上はしたと思います。そんな高価なソフトウェアでしたが、処理能力が低いためリアルタイムの処理も難しく、音質的な問題も大きかったのです。
それに比べて今日のレストレーション・ソフトウェアはPCの性能が上がってきたため、処理能力も高く音質的な問題も解決しつつ、そして何より価格も安くなりました。今ではDAWに標準バンドルされているものもあり、それだけノイズ処理の需要も上がってきたと言え、そして身近に使えるソフトウェアとなりました。
その中でもWAVES Restorationにバンドルされている5種類のプラグインはシンプルな操作性と使い勝手の良さ、処理能力も高く音質劣化も非常に少ないレストア・プラグインの一つに挙げられるでしょう。音楽制作でのノイズ処理に向いていると思います。
いかに楽曲の音楽性や音質の劣化をせずにノイズを除去していくか
音楽制作、特にCDや音楽配信のマスタリングにおけるレストアというと、楽曲が商品として聞き苦しくならないようにノイズを処理することが主となります。例えば古い音源(アナログレコードやアナログテープ)は多くのノイズが乗っていることが多いので、聞く人(商品を買った人)が不快な音に感じないようにノイズを除去していかなければなりません。
そして、いかに楽曲の音楽性や音質の劣化をせずにノイズを除去していくかがポイントとなります。
WAVES Restorationにはアナログレコードのノイズ処理に有効なX-Click、X-Crackle、電源ノイズに由来するハムを除去できるX-Hum、アナログテープのヒスノイズのような定常的なノイズを除去するX-Noise、Z-Noiseと様々な用途に応じたソフトがバンドルされています。
X-Clickでクリックノイズを除去

X-Clickは主にアナログレコードに発生するクリックノイズ除去に対して有効なソフトです。非常にシンプルな構成でいて、的確にクリックノイズを処理できると思います。突発的に発生するクリックノイズに対してリアルタイムに検出して処理を行います。
[Threshold] [Shape]で対象の音源に対しどれぐらい深く処理をかけるか、またどの大きさのノイズに反応させていくかを決めます。[Threshold][Shape]は低い値からアプローチして少しずつ量を増やしていきます。値を高くするとシンバルやスネアなどの打撃音にRestore処理が反応して音質を損なうので注意が必要です。基本はX-Crackleと併用して使用すると良いと思います。
X-Crackleでレコードの雑音を除去

X-Crackleは特にSPレコードのような定常的に発生している「パチパチ」音を除去するのに有効です。X-Click同様に、[Threshold][Reduction]は低い値からアプローチして少しずつ量を増やしていきます。
大事なことは[Threshold][Reduction]共に値を大きくしていくと、ノイズ自体は除去されますが、全体の音質がフランジングしたような音になってしまうことを避けなければいけません。特に[Reduction]量は注意してください。[Atten]の値で処理される量や[Difference]を使い実際に処理される音だけを聞いて判断するとよいでしょう。基本はX-Clickと併用して使用すると良いと思います。
試聴音源では、SPレコード音源をX-ClickとX-Crackleを同時にかけて処理しました。
処理前音源
処理後音源
X-Humで電気的なノイズを除去

X-Humは録音時に乗ってしまったハムノイズやDCオフセットを除去するためのソフトです。ハムノイズは録音時の電源周波数に依存しますので、[Freq]で1次周波数を見つけ出し減衰させるレベルを決めます。その後、2次以降の減衰レベルを設定します。X-Humでは[Link]で2次以降のフィルターを全てリンクさせたり、偶数倍(ODD)、奇数倍(EVEN)の周波数だけをリンクさせて対象周波数やレベルを操作することが出来ます。この点は非常に便利だと思います。ただ注意する点は、2次周波数以降は音質に大きく影響を及ぼすので、慎重に減衰レベルを設定しないといけません。また[High Pass]フィルターによりDCオフセットを除去することも可能です。
試聴音源は2次周波数が大きいHumでしたので、2次の減衰レベルを大きくしました。
処理前音源
処理後音源
X-Noiseにノイズを学習させて除去

X-Noiseは定常的に発生している空調ノイズや振動ノイズ、またアナログテープにおけるヒスノイズの除去に有効なソフトウェアです。定常的に発生しているノイズに関しては、[Noise Profile]によって学習させ、ノイズ部分だけを検出し除去するのが有効となります。
また[Dynamic]の設定により、ノイズリダクションの反応速度を調整できます。X-Noiseはこの機能が非常によくできていると思います。
必要に応じて、[High Shelf]の設定により高域の処理の深さのみを調整すると良いでしょう。[Threshold][Reduction]の量は波形の赤(X-Noise信号処理前の信号)、白(Noise Profile)、緑(X-Noise信号処理後の信号)を見ながら調整します。このX-NoiseやZ-Noiseは[Reduction]を強くしすぎると音質の変化が大きいので注意が必要です。
Z-Noiseではノイズ学習とEQを使用して除去

Z-noiseはX-noiseの上位機種という位置づけでしょうか。大きく違う点は、[Noise Profile]に対してEQを加えることができます。EQは5つあり、それぞれにゲイン、周波数、Qが設定でき、より細かい設定が出来るようになっています。この機能を上手に使うと残したい音と除去したい音の境界を細かく設定できると思います。
また[Transients][knee]は非常に面白い機能です。必要に応じて調整すると良いと思います。X-noise、Z-noiseに共通しているのは、いかに[Noise Profile]を設定するかです。ヒスノイズや空調ノイズだけの部分から検出した[Noise Profile]であれば、かなり良い結果が期待できます。
試聴音源はZ-Noiseを使い、[Noise Profile]のEQで微調整を行い処理しました。
処理前音源
処理後音源
ノイズを完璧に取ることに重点を置かない
今回、使用したWAVES Restorationはシンプルで操作性も良く作られています。あまりRestoreソフトウェアを使ったことがないエンジニアさんでも簡単に理解し処理することが出来ると思います。
ただここで一番重要なことは、ノイズを完璧に取ることに重点を置かないことです。完璧にノイズを除去しようとすると、どうしても音質が変わってしまいます。なぜならノイズと一緒に元の楽曲の音楽性や音質の良い部分まで削ってしまう事があるからです。
非常に性能の良くなったRestoreソフトであっても、どこまでのノイズを取るかを判断するのは使うエンジニアです。その判断を誤ると良い音まで削ってしまう危険があるのです。ノイズを取りすぎるくらいであれば少しノイズが残っているくらいがちょうど良いと私は思っています。その点を十分注意しながらRestoreしていくと良いでしょう。あとは心地よい音質になるまで色々とチャレンジしていく事が良いと思います。
今回は音楽制作におけるRestoration の講評をさせて頂きました。私はポストプロダクションにおいてのRestoreはあまり詳しくありませんが、もしかしたら音楽制作とは違うポストプロダクションのアプローチでWAVES Restorationを使いこなすともっと可能性が広がるかも知れません。
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