
DiGiGrid DLS導入レポート – 鈴木Daichi秀行
2013年のNAMMショーで発表され、ネットワークで自由にI/Oを拡張でき、Wavesプラグインが超低レイテンシーで使えるソリューションとして注目を集めてきたDiGiGrid製品ですが、2014年10月、ここ日本でもPro Tools向けのI/Oとプラグイン・サーバーDLSの発売が開始されました。
プロデューサー、アレンジャー、マルチプレーヤーとして多方面で活躍する鈴木 Daichi秀行さんがいち早くDLSを導入、インタビューを行う機会を得え、すでにレコーディングのプロジェクトで使用されているDLSの使用感をお伺いすることができました。
2020.01.01
DiGiGrid DLSをStudioCubic導入された理由を教えて下さい。
DLSは、一度ソフトウェアの設定をしてしまえば使い方も簡単で、Pro Tools HDXでレコーディングの時にもWavesのプラグインを使えるようになることが大きいかったですね。これで、AAX DSPプラグインと同じ感覚でWavesのプラグインを使えるようになりました。外部DSPを使う他の機材のほとんどは、Pro Toolsとは別にミキサーが立ち上がっていて、そちらにプラグインをインサートする場合が多く、一手間かかるのですが、DiGiGrid DLSならPro Toolsの画面を離れることなく、今までと同じように作業できます。
Pro Tools HDXシステムとは、どのようにDLSを接続していますか?
今は、旧Mac ProにHDXカード1枚を挿して、1番目のDigiLink I/OからAvid HD I/O 2台に繋ぎ、2番目のDigiLink I/OからDLSに接続しています。度新しいMac Proが届いたところなので、これにThunderboltでHDXカードが2枚入ったEcho Express SE IIをMcに接続、1枚目のHDXカードからは、3台のAvid HD I/Oに繋ぎ、2枚目のHDXカードからは2本のDigiLinkポートをDLSに繋げる予定です。これでプラグインのインサートが64統に増えるので、とても強力なシステムにできますね。

Pro Tools HDXカードとDLSの接続イメージ。
DLSの導入をきっかけに、ワークフローに変化はありましたか?
48kHzのセッションだとCPUはそれほど使わなかったのですが、大手のレーベルがハイレゾ音源に対応させるために、96kHz納品の指定が増え、最初から96kHzで作業をすすめることが多くなりました。96kHzだと、CPUのパワー的にちょっと不安に感じることがあったのですが、DiGiGrid DLSを導入して、CPUと外部DSPの分散というか、CPUをなるべく解放してやった方が動作も安定しますね。重いプラグインとかも気兼ねなく普通に使っています。他の多くのエンジニアの人も良くそうしていますが、これまでだと、最初は軽めなプラグインを選んでおいても、作業を重ねていくうちに、CPUパワーの限界が来てしまうことがあったのですが、そんな心配も必要なくて、重さを考えずに使いたいプラグインをアサインすることができるようになり、ストレスが無くなりました。
例えばWavesのSignatureシリーズなどは結構重いので、以前はレコーディングの段階では使えず、最後のトラックダウンになってからインサートしていたのですが、今では録りの段階から使っています。コーラスのダビングとか、ギターのダビング用のラフミックスを作った後、レイテンシーの問題で、録りのときにわざわざネイティブのプラグインを外す必要がありました。DLSを導入してから、プラグインのやり繰りを気にせず、ずっと作業を進められるのは良いと思います。
DLSでは、Studio Rackを立ち上げて、プラグインをDLS内のサーバーで処理しますが、このStudio Rackの使用感は如何ですか?

DLSで動作するプラグインがロードされたStudio Rack
違和感なく使えていますよ。逆に8個までのプラグインをひとまとめにできるし、すきなチェインも保存もできる。例えば、Puig TechのEQP-1Aとか、HLS PIE Compressorなどをよく使うので、これらをStudio Rackのチェインに入れて保存しています。
Studio Rackの便利な機能があれば教えて下さい。
ネイティブ環境でも、DiGiGridのDSP環境でも、プラグインのチェインの互換性が保てるのは良いですね。これは普通に便利ですからね、プリセットも保存できるし。ネイティブだとフリーで配布されているので、DLSを持っていない人も使ってみたら良いと思いますよ。Pro Toolsだと1つずつプラグインをロードするのが基本ですが、これがあればプラグインのコピーがとても楽になります。ボーカルで2本トラックを使うときとか、コーラスのトラックなどでは、同じプラグインの組み合わせを複数のトラックにまたがって使うことが多いので、今まではプラグインを一つ一つコピーするのが面倒だったのですが、Studio Rackで複数のプラグインのコピーが1回で済むようになりましたね。
DLS内のDSPによるプラグイン処理の音質はどうでしたか?
音質的には今までと全く変わりなく使えています。むしろ、外部の処理に任せられる安心感が大きいですね。例えばVienna Ensembleとかヘビーな音源を使うとき、音源は別のPCで走らせたりするのですが、それと同じ感じでプラグインの処理を外部に任せられるので、ちょっとしたところの動作の速さとか、とても快適に使えています。
Ethernetケーブル1本で、I/OやDAWを拡張できるのがDiGiGridの特徴ですが、今後この機能をどのように利用していきたいですか?
今はHDX環境でDLSはDigiLink接続していますが、たぶん機能的にもっと面白いのは、ネイティブ環境だと思います。それこそMacBook Proだけ持っていて、Pro ToolsもNativeで、Avid HD I/Oとか192 I/Oとかを使って、そこから入出力できるのはとても大きなメリットですね。Apogeeなどネイティブで使えるI/Oは沢山ありますが、やはりリファレンスとして192 I/OとかHD I/Oを使っている人も多いと思うので、その音でモニターできるのは大きいですね。
まだ試せてはいないのですが、複数のDAWを接続してトラックの流し込みなんかもできるようなので、これから応用例は山ほど出てくるでしょうね。自分も制作にはCubase、Bitwig、Pro Toolsを使い分けているので、例えば、Bitwigはループもの中心、MIDIの打ち込みはCubase、ギターの録音はPro Toolsでやるなど、DAWの個性にあわせて、作業を同時進行させるのも面白いと思います。
最後に、DiGiGridに今後期待することがあれば教えて下さい。
自分のスタジオで1階と2階を繋げるのは今すぐにでもできると思いますが、将来外のスタジオと繋がれば一番良いですね。それこそ、それぞれの家でレコーディングしてインターネットを介して作業したりとか…ネットワーク・ベースの製品なので、そんなことも期待してしまいます。
ありがとうございました!
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