
Production & Mix with WAVES – Shingo Suzuki – サウンドメイク編
前回のVol.1では、WAVESのソフトウェア音源を使って楽曲のプリプロ編をご紹介いただきましたが、今回のVol.2ではどのような作業をご紹介いただけるのでしょう?
2020.01.01
「汚す」ことで自分好みの質感に
前回のドラムの打ち込みを行ったときに「これはまだガイドの段階」とお話ししていたかと思いますが、今回はまずこのドラムトラックを完全にブラッシュアップして、曲に合うように作り直しました。使っているのはLogic Pro XのDrummerのままですが、プラグインなども併用して音作りをすることでまったく違うものになっています。まずは、前回までのドラムと新しく作り直したドラムを聞いていただきましょう。
・前回の記事までのドラムトラック(ラフ)
・新たに作り直したドラムトラック
どのようなプラグインを使って音作りをしたのですか?
まずはキックにLoAirというプラグイン。プリセットの中に「Subharmonic Mastering」というものがあって、名前からするとマスタリング用のプリセットかなと思うのですが、これがすごく合っていた。狙いたかった効果は「ドラムの重心を下げる」イメージ。オンオフを比較すると低い方の空気感が出てくれるんですよね。ドラム全体で比較してみましょう(ヘッドフォン、イヤフォン等でのチェックを推奨)
・LoAirオフのドラムトラック
・LoAirオンのドラムトラック
キックだけにかけているのに、確かにドラム全体の重心が下がって安定したように聞こえます。
次にハイハットですが、オリジナルの高域が少しキツかったのでEQでわずかにカットしているのと、もう少し「ジャリジャリ感」が欲しかったので歪み系のプラグインをかけたら面白くなるかなと。ここで選んだのがMDMX Overdrive。ドラム全体を聞きながら歪みの量を調整しつつ、MDMXのEQでさらに音作りもしてみました。これもオンオフを全体で比較してみましょう。
・ハイハットにEQのみで音作りをしたもの
・ハイハットにMDMX Overdriveで歪みを加えたもの
パラメータを見るとかなり激しめにドライブしていますが、ドラム全体で聞いてみると確かにこのくらいのジャリジャリ感が心地よく、また音が抜けてきますね。
僕が「汚す」のが好きだからというのもあるけど、こういったプラグイン音源って幅広いユーザーに対応するために比較的「キレイめ」に作られていることが多いんですね。特にハイハットなんかは「汚す」ことを意識して音作りしていかないと "いかにも打ち込み音源” っぽい感じになっちゃう。僕の場合はこうやって歪み系で汚してみたり、コンプで潰したりが多いかな。
MDMXの印象はいかがですか?
掛かりがすごくよくて使いやすいのに個性的なところもあって面白いですね。一般的な歪み系のプラグインよりもパラメータも多いから追い込んだ音作りもできそうです。音を歪ませるとローが薄くなっていくものですが、EQやトーン、ダイナミクスに応じたパラメータもあって好みのキャラクターにすることも簡単ですね。僕好みのジャリッとしたハイハットになったかなと思います。
他に気になったのは、ドラムのフィルの部分だけに不思議なモジュレーションエフェクトがかかっていますね。
これはDoublerを使いました。耳を惹くステレオ感が欲しかったので、フィルの瞬間だけに使って印象的になるようにしています。モノラルの音をステレオに広げたり、ステレオの素材をさらに広げたりという技はスポットで行うことがありますが、こういったツールは面白いですね。全てのWAVESプラグインを試し切れてはいないのですが、他にもこういったツールはあるのですか?
例えばモノラルの音声を自然なステレオに変えるPS22。それから帯域ごとにステレオイメージを狭めたり広げたりするということであれば、Vitaminというプラグインで行うことができます。Vitaminは5バンドのマルチバンドエンハンサーでもありますね。
(しばし試して)どちらのプラグインも面白いですね!特にVitaminは帯域別にプッシュもしつつ、ミドル以上だけステレオイメージを広げるという使い方もできるわけですね。これから使ってみたいと思います。
今回のフィルで使ったDoublerは効きがすごくいいのにクセや嫌味がないのがいいですね。ボーカルにはよく使っているのですが、ドラムに使ってみたら思った以上によかったので採用しました。これもオンオフの比較で聞いてみてください(9秒〜のドラムフィルをチェック)
・ドラムフィルにDoublerを使ったもの
・Doublerをオフにしたもの
Shingoさんの狙い通り、フィルの瞬間にパッと耳を持っていかれるというか、印象が強まりますね。
レコーディングとアレンジとミックスは「ほとんど同時進行」
こういうギミックを考えるのも、僕の場合はレコーディングとアレンジとミックスは「ほとんど同時進行」でやっていくからこそかもしれません。思いついたものはその場でレコーディングしちゃうし、プラグインを使ってどんどん音作りもしていきます。次はこれに生のベースを入れたいと思います。
使用されるベースやエフェクトなど周辺環境を教えていただけますか?
ベースは所有しているFender Jazz BassのAmerican Vintage、USAの1974年リイシューモデルで、特にストンプエフェクターは使っていません。僕はもともと、レコーディングではあまりエフェクターを使わないほうなんです。シンプルにDIのみというケースが多いですね。エフェクターなどを使ってパンチ感を出せば出すほど腰高になってしまって、結果それはミックスに馴染まない音になっていくように感じるんですね。
オーディオI/Oはご愛用頂いているApogeeのEnsemble Thunderboltですね。
はい、それからちょっとWAVESからは離れるのですが、ベースレコーディングをするにあたって自宅環境でも間違いのないジャッジをするために、SonarworksのReferenceは必須ですね。
以前Shingoさんにインタビューをしたときも「ミックスの時だけじゃなくレコーディングの時点からReferenceを使う」と仰っていましたね。
モニタースピーカーから音を聞くことになるので、その音が間違いであってはよくない。特に低域は必ずといっていいほど部屋の影響で正しく再生されないので、Referenceは必須ですね。
正しい音であることによって、プレイにも影響がありますか?
ありますね。ミュージシャンはやはり出音に反応してプレイやニュアンスを変えるはずなので、間違った音で演奏するわけにはいかないんですね。特にベースを録るときには必須です。
奏法別に使い分けたいTips
ベースは2パターン録ってみました。1つは普通のツーフィンガー奏法、もう1つは親指でのピッキング。比べた結果、親指の温かいニュアンスが曲にマッチしていたので、こちらを採用しました。
これは小さなTipsですが、親指で弾いた時は低域がちょっとモコっと持ち上がるので、シンプルなEQを使ってローミッドの300Hz辺りを少し削ってあげると馴染みがいい。また逆にツーフィンガーで演奏したときには、RBassを使ってローエンドを持ち上げてあげる。ベースのラインの音って結構音が細いので、低域の倍音感がほしいときの対処ですね。
ベースアンプシミュレータには普段から愛用しているGTR Ampを使いました。GTRの中に「Motown」というカテゴリのアンプがあり、この中のModern Vintageというアンプ。モダンヴィンテージだから「きっとAmpegのB-15辺りかな?」と推測しましたが、これが弾いていて一番気持ちのいいアンプですね。キャビも4発のモデルなので「濃密なローエンドは欲しいんだけど、輪郭もしっかり出したい」というときにピッタリのセレクトですね。
ご名答です!こちらはAmpeg B-15Nをモデリングしたアンプです。
ここから先がプラグインを使った現代の制作ならではですが、この後にコンプでCLA-2Aをインサート。スタジオなんかでも定番のコンプですよね。これを通すと若干トーンが明るくなる印象があるので、「ベースがちょっとダークすぎるなぁ」と思ったときに使います。逆に「もっとしっとりさせたいな」と思ったときにはAPI2500を使いますね。この辺は曲によって使い分けです。
CLA-2Aはインプットゲインとリダクションのたった2つのツマミしかないので、迷いようがない(笑)潰れ具合やキャラクターが好みのところになるところにパパッと調整して終わりです。
こうしてレコーディングしたベースがこちら。ベース単体と、楽曲に混ざった状態で聞いてみてください。
・GTR AmpとCLA-2Aで作ったベーストラック
・ベース入りのミックス全体
鍵盤楽器やシンセなどにはどのような音作りをしましたか?
Rhodes(Electric 88)にはCLA-2Aで軽くコンプをかけたあと、ドラムと同じDoublerを使っています。フェイザーでもよかったんですが、フェイザーほどエフェクティブじゃない程よい広がりと揺れが欲しかったからです。心地よいダブリングがいいですよね。こうやってアレンジやバランスを取りながらもプラグインで自分好みの音に変えていってしまいます。ミックスの中でこれくらいの揺れが気持ちいいという具合を確認してみてください。
・RhodesピアノにDoublerで揺れと広がりを加えたもの
・Doublerがオフの場合
さらに、前回の記事でFlow-Motionを使って作ったクラビネットっぽい音色には、CLA Effectを使って汚してみました。
これに関してはインサートした状態のままで、何もパラメータはいじっていないのですが、すでにいい感じに「汚れ」ている(笑)歪みっぽさも出てるし、リバーブやモジュレーションもかかっていますね。これはこれでOKとしました。こちらは単体でオンオフ比較してみましょう。
・CLA Effectがオフの場合
・CLA Effectがオンの場合
ここまでの作業でVol.1と比べてかなりブラッシュアップされましたね!
そうですね。今回はベースが入ったことが大きいとは思いますが、ドラムの作り直しやその他の楽器を汚す作業が入りましたから。やはり色々なツールを使って加工したり、汚したりという作業は個性が出てくる一番のところでもあるし、ぜひそれぞれの「汚しツール」を見つけてほしいですよね。では、今日までに行った作業の全体像を聞いてみましょう。
次回Vol.3ではどのような作業になりそうですか?
ここまではツルッとしたミュージシャンのセッションのような仕上がりになっていますが、歌物のバックトラックを作ってるようなイメージにしたいので、それぞれのトラックの「おいしいところ」をサンプリングしたりループしたりして再構築し、最終の2ミックスにしようかなと考えています。
この時点でShingoさんの頭の中には完成形のイメージはあるのですか?
いえ、まだ何も決めていないです。作っていく過程でもしかしたらテンポも変えちゃうかもしれないし、使うエフェクトも変わるかもしれない、聞く人によっては「え?そんなに削ぎ落としちゃうの?」と思うくらいソリッドにするかもしれないけど、ヒップホップのトラックのようなボーカルやラップが乗るような形にしたいなとはイメージしています。
プロフィール

Production & Mix with WAVES Shingo Suzukiシリーズ
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