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WavesLive eMotion LV1が「輝く!日本レコード大賞」で新たな可能性を示す

WavesLive eMotion LV1が「輝く!日本レコード大賞」で新たな可能性を示す

2024年12月30日、TBSテレビで放送された「輝く!日本レコード大賞」において、WavesLive eMotion LV1(以下、LV1)ミキシングコンソールが通常とは異なる運用方法で活躍しました。今回のテーマは「リモートプロダクション」。会場の音声中継車にあるLV1を、TBS放送センターから遠隔操作するという画期的な試みが行われました。

2025.02.27

最新技術「IOWN」を活用した通信

渋谷区初台の新国立劇場と港区赤坂のTBS放送センター間の通信には、NTTが提供する次世代通信技術「IOWN APN」が採用されました。NTT東日本の蔵前データセンター経由で2拠点を接続し、ローカルネットワークに匹敵する低遅延で揺らぎの少ないIP伝送を実現するこのインフラにより、リモートプロダクションが実現しました。

IOWNについて(外部リンク)

Danteでの音声伝送とLV1のリモート操作

音声の伝送には放送局でも多用されているDanteネットワークが使用され、各トラックの音声や2ミックスがI/Oやコンソール遅延も含めて、わずか3msec(片道)の低遅延で送受信されました。LV1本体は新国立劇場内の中継車に設置され、UltraVNCリモートアクセス・アプリケーションを用いてTBS赤坂本社のスタジオサブ編集室から遠隔操作されていました。

スタジオでのモニタリングが生む新たな価値

4時間30分にわたる生放送で、多数のアーティストのパフォーマンスが披露されました。通常の中継車ではフェーダーや十分なモニタリング環境が不足する場面も多い中、放送センターのサブという慣れ親しんだ環境でのモニタリングとミキシングが可能となった点は、今回の試みの大きなメリットといえます。

このように、リモートプロダクションを通じて放送技術の新たな可能性を示したWavesLive eMotion LV1は、今後の音声制作のあり方を変える鍵となるかもしれません。

新国立劇場:音声中継車と車内に仮設されたeMotion LV1システム
TBS放送センター:スタジオサブでLV1をリモートミックス

放送終了後、レコード大賞の技術責任者である株式会社TBSテレビ メディアテクノロジー局 制作技術統括部 中村全希氏と放送センターでのリモートミックスを担当された株式会社TBSアクト 佐野正和氏(TBSテレビから出向)に今回のプロダクションについて詳しくお伺いすることができました。

リモートプロダクション実施の経緯

中村全希氏(以下、敬称略): 昔からレコード大賞の音声ミックスには、場所と環境の制約がありました。これまではステージ袖や観客席の後ろ、トラック内の簡易スペースなど、さまざまな場所で音声のミックスをしてきました。

レコード大賞は毎年、スペシャルバンドによる特別オーケストラ編成で、通常の中継番組よりも回線数が非常に多くなります。1台のコンソールではチャンネル数が足りず、複数のコンソールを同時に使用してパート別のプリミックスを行い、それをマスターとなる音声中継車のメインコンソールで最終ミックスするという手法を取ってきました。しかし、場所の制約から理想的な作業環境を確保するのが難しいのが現状でした。

ヘッドホンや小型スピーカーでミックスせざるを得ないという問題を解決するためには、中継車をミキサーの人数分用意するか、スタジオで音声ミックスを行うしかない。そこで、今回はNTTさんや各メーカーの皆様のご協力もあり、リモートプロダクションを実施することにしました。

リモートプロダクションのリスクと対策

中村: 2年前のレコード大賞で、ダークファイバ―による1Gbpsの光専用回線を用いてDanteの通信実験を行いました。その結果、問題なく運用できることが確認できました。

今回はIWON APNの100Gbps専用回線を確保したので、映像や音声の制御を含めた安定した伝送が可能だと確信していました。また、万が一通信が途切れた場合にも、現地でのオペレーションに切り替えられるバックアップ体制を整えました。

eMotion LV1を選んだ理由

中村: 今回のシステムでは、現地でのミックスに加え、遠隔地でのミックスを2パターン用意しました。そのうちのひとつがLV1でのリモート制御、もうひとつがDanteによるリモートミックスです。

Danteミックスは、初台の会場からマルチで64chの音声を赤坂に送り、Dante対応のコンソールでミキシングしたものを初台に戻すという方式。一方、LV1は初台にある本体を赤坂からリモート制御し、マルチ音声は赤坂に送らず、ミキシングの為のモニター回線のみをDante回線経由で使用する形で運用しました。

LV1の採用のきっかけは、2023年のInterBEEでWaves CloudMXの存在を知ったことです。AWSクラウド上で1秒以下の遅延でオペレーションが可能だと知り、LV1でも同様のことができるのではと考えWavesの代理店であるメディア・インテグレーションに相談したのが始まりです。

(株)メディア・インテグレーション(以下、MI): LV1はWindows OS上でGUIとなるソフトウェアを走らせ、Waves SoundGrid Serverで音の処理を行うため、汎用のリモートデスクトップ・ソフトウェアやrtpMIDIを使えばリモート制御が実現できると考えました。

LV1のオペレーション内容

佐野正和氏(以下、敬称略): 今回LV1が担当したのはパーカッション全般です。パーカッションは瞬間的に鳴る楽器が多く、フェーダー操作を誤ると音楽が破綻するリスクがありました。しかし、リハーサルを通じて問題なく処理できることを確認しました。

音声の遅延は実測で3msec(片道)でした。この数値は、IPや制御の遅延だけでなく、システムのAD/DA、ミキシング・コンソールの遅延を含んだものです。LV1による制御遅延も音声同様3ms程度であり、操作の遅延はほとんど感じられませんでした。

中村: また、LV1はアウトボードのエフェクトとしても活用しました。パーカッション24chの遠隔制御のほか、音声中継車で裁いている、トータルミックス、ギター、ドラム、ベースのインサート・エフェクトとして合計で32ch使用していました。

パーカッションに立てられたマイクロフォン
ステージ裏のマイクプリアンプでAD変換(MADI)され音声中継車へ

佐野: LV1は制御のみの運用だったため、赤坂側では汎用のノートPCとFIT Controllerだけを使用しました。リモートでの接続も迅速に行え、赤坂でのセットアップはとてもスムーズでした。

リハーサル初日は初台の現場でLV1を操作し、回線チェックができたことも大きなメリットです。演奏者と直接コミュニケーションしながらサウンドチェックができ、その設定をそのまま赤坂で活用できるのは大きな利点でした。

また、LV1はリモートデスクトップ・ソフトウェアを活用し、初台と赤坂の双方から制御可能でした。例えば、インサーション設定を初台のスタッフが行い、パーカッションの調整を赤坂のスタッフが担当するといった分担を行っていました。

使用したWavesプラグインとその効果

中村: F6 Floating-Band Dynamic EQやアナログモデリング系のプラグインを多用しました。特にF6はDinamic EQとして、ベースやキックなどの低域部分が鳴っているときだけ処理するなど、マスターセクションでも活躍しました。

MI: アナログモデリング系と実機を比較してどうでしたか?

中村: アナログ機材は個体差があり、それが魅力でもありますが、同時にトラブルの原因になることもあります。モデリング系はそうしたリスクがなく、電源やワイヤリングのトラブルも回避できる点が利点です。

佐野: パーカッションにはF6やeMo D5を活用しました。eMo D5は視認性が良く、大きな画面で直感的に操作できる点が魅力です。

また、Manny Marroquin Reverbも非常に効果的でした。Wavesには多くのリバーブがありますが、その中でもこのリバーブは直感的な操作性と自然な馴染みがあります。

中村: リバーブは楽曲の世界観や演出を支える重要な要素です。例えば、バンドサウンド全体(特にリズム系)はドライに仕上げ、特定の箇所だけパーカッションのリバーブを強調するといった使い方をしました。

F6 Floating-Band Dynamic EQ
eMo D5 Dynamics
Manny Marroquin Reverb

リモートプロダクションを終えて

中村: 最大のメリットは、環境改善によるプリミックスのクオリティ向上と、現地機材がコンパクトになり、機材配置やプリミックスとしてのワイヤリングや仕込み時間を短縮できたことです。

佐野: その分、幹線引き回しや事前のサウンドチェックなどに多くのリソースを割り当て、スタッフの動きに余裕が生まれました。労働時間が問題視される昨今、リモートプロダクションは非常に魅力的です。

中村: レコード大賞はTBSにとって非常に重要なコンテンツであり、新しい技術への挑戦の場でもあります。今回の成功を受け、LV1を始めとする魅力的なソリューションを利用した新しい番組制作の形が全国に広がることを期待しています。

関連記事:世界初、IOWN APNによる生放送の音声リモートプロダクションを実現~IOWN APNを年末音楽番組の「輝く!日本レコード大賞」で活用~
取材協力:株式会社TBSテレビ
関連製品:WavesLive eMotion LV1, FIT Controller for LV1

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